
ロシア軍の侵攻によるウクライナでの戦争が長期化する中、ウクライナ南部クリミア半島沖の黒海上空を飛行していた米空軍の無人機に露空軍の戦闘機が接近、衝突し、米無人機が墜落した。不測の事態が米露間の軍事的緊張を高めることが懸念されるとともに、国際法違反のクリミア半島併合を正当化するような筋違いの「防空」行為は指弾されなければならない。
米無人機は損傷し墜落
米無人機MQ9の墜落の経緯について、米国防総省は詳しく経緯を報告している。露軍のスホイ27戦闘機2機がクリミア半島の南西120㌔付近で30~40分にわたって接近飛行し、燃料を浴びせるなどの妨害行為を繰り返す中で機体が接触、無人機はプロペラを損傷して墜落したという。
ロシア国防省は、米無人機の黒海上空での飛行を探知して戦闘機を緊急発進させたが、接触はしておらず、無人機は急に高度を下げて制御不能になって墜落したと主張している。だが、米側は証拠となる衝突の瞬間のビデオ公開に踏み切り、露戦闘機の執拗(しつよう)な妨害が白日の下に示された。
ウクライナでロシア軍が苦戦するに伴い、プーチン露政権は戦っているのはウクライナとではなく、米国をはじめとした西側諸国だと敵対心を露(あら)わにしている。米軍の偵察活動についても「ウクライナのためだ」と被害感情を隠さない。
米無人機に露軍パイロットが戦闘機の燃料を噴射してカメラやセンサーを汚し、揚げ句は機体接触によりプロペラを壊したのは相当の敵意の表れと言えまいか。オースティン米国防長官が「無謀な行為」と非難する露軍の行為は、情報戦に神経を尖(とが)らせた結果であるとともに、偶発的ではない可能性もある。
似たような事例として、2001年に発生した海南島事件がある。南シナ海上空を飛行中の米電子偵察機EP3に中国軍の戦闘機2機が危険な接近飛行を行い、このうちの1機がEP3に接触して墜落。機体を破損したEP3は中国・海南島に緊急に不時着した。乗員の米兵24人と解体された機体は米側に引き渡されたが、強い敵対感情を背景に起きた事件だ。
その後、中国は南シナ海のほぼ全てを「領海」とする「九段線」を前面に出し、フィリピンと係争関係にある島嶼(とうしょ)を一方的に実効支配する「力による現状変更」を露骨に進めた。
一方、ロシアは2014年にウクライナのクリミア自治共和国を併合し、さらに昨年2月の本格的軍事侵攻後はウクライナ東部、南部の4州の併合を一方的に宣言している。国際法違反は明らかであり、これらの地域でロシアの領土、領海、領空は断じて認められない。
にもかかわらず、無人機に「緊急発進」を行い墜落させた結果は、力による現状変更を横暴な手法で主張したことになり、極めて遺憾だ。
併合の既成事実化警戒を
今回の事態に対して、米露両国とも軍事的に緊張を高めることを望んではいないが、ロシアの違法な領土拡張が既成事実化していくことには警戒を強めなければならない。



