英の不法移民法案に懸念高まる 不法入国、昨年は4万人超える

国連国際法違反を指摘

英国上陸を目指し、英仏海峡へ出航しようとする移民たち=昨年10月12日、フランス北部ダンケルク近郊(AFP時事)

フランスと取り締まり強化合意

英国のスナク政権はフランスから英仏海峡をゴムボートで無謀に渡り、英国に漂着する不法移民を阻止するため、新たな不法移民法案を提案した。ただ、人道的観点から欧州連合(EU)や国連が懸念を表明し、英国内でも新法が議会で承認される可能性が高いとは言えないとの見方もある。(パリ・安倍雅信)

不法移民については、2018年に英仏海峡を小舟で渡って英国に漂着したのは約300人だったが、22年には4万5756人に膨れ上がっている。

スナク政権は今月7日、不法移民に対する厳しい措置を含んだ不法移民法案(通称、ストップ・ザ・ボート)を打ち出すに当たり、「(これまでに)あらゆる措置を講じたが効果はなかった」と強調した。

英国政府は昨年、フランスのダルマナン内相にフランスの海岸を離れる前に不法移民を食い止めるよう要請し、昨年11月に英仏間で協定に調印。沿岸の取り締まり強化のパトロール隊員増強などで英国側は7200万ユーロ(約1億360万円)を拠出した。

しかし、不法移民の密航者は減る様子がなく、22年は前年から1万7000人以上増えた。フランス側の漁師たちは沈むボートから不法移民を何度も救出し、漁に集中できないとの声も上がっている。

英国がEUを離脱する前から、英仏は悪質な密航業者の取り締まりと、その解体で協力してきた。密航業者たちは、フランスで1人当たり最大3400ユーロ(約49万円)を要求して移民を危険な小型ボートに乗せ、英国に密航させているという。

スナク英首相は今月10日、パリでマクロン仏大統領と会談し、フランスに新しい不法移民収容所を建設する費用と、小型ボートがフランスを離れることを防ぐために追加の警察による取り締まり強化資金として、3年間で約5億6400万ユーロ(約810億円)を供与することで同意した。

英国を目指す不法移民には、イランやアフガニスタン、インド、アルバニアのほか、アフリカのエチオピアやエリトリア人らが多い。英国は長年、違法な方法で入国しても寛容な国として知られ、難民認定率も最新の数字で39・8%(日本は2019年で0・3%)と高く、ブレグジット(EU離脱)前から不法移民に人気が高かった。

しかし、外国人の急増はブレグジットの理由の一つとされ、不法移民対策は英国にとって政治優先課題になった。移民が社会保障などの国家予算の負担になっているとの見方も根強い。

今回の新法では違法に入国した者は二度と英国に入国も居住もできず、不法移民は難民申請もできず収容施設で28日間拘留された後、英国が協定を結ぶアフリカのルワンダなど安全な第3国に強制送還することが含まれている。

法案を提出したブレーバーマン内相もスナク首相もインド系で、インドメディアもインド人不法移民の動向に注目している。ブレーバーマン氏は、保守党議員への書簡の中で、法案が欧州人権条約(ECHR)に適合しない可能性は「50%以上」だとしている。

英野党・労働党は、13年近く与党の座にある保守党が「英国の人権尊重の伝統をとうとう踏み外した」と強く批判し、議会で抵抗の構えを見せている。

イプソスによる世論調査では政治優先課題4位以内に不法移民問題が入り、保守党支持者の40%、労働党支持者の31%が不法移民新法を支持している。

ただ、国連の難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、法案について「亡命禁止」「国際法に違反している」と強い懸念を表明。EU側では「英国はEU離脱後、不法移民問題を金でフランスに押し付けようとしている」との批判の声も聞こえる。