
「絆」。訓読みで、きずな、つなぐ、ほだす。広辞苑にはこうもある。「断つにしのびない恩愛」。絆とは何という深みのある言葉だろうか。
東日本大震災に遭遇した2011年。その年の世相を表す漢字は「絆」だった。あの日から12年目の3月11日が巡ってきて改めて絆を思う。
絆と切っても切れない恩愛とは、これも辞書には「恵み。慈しみ。夫婦・肉親間の愛情。また、それに対する執着。『恩愛のきずな』」とある。この恩愛の絆こそ日本人が惨禍の中で、あるいはその直後に共に心に刻んだ糧であろう。このことは世論調査でも自明のことだった。
毎日新聞と埼玉大学社会調査研究センターが「平成という時代」を問うた調査(17年)の中で、「何を得たか」「何を失ったか」を自由記述で聞いたところ、いずれも「家庭」「子供」「孫」「父」など家族にまつわる回答が最も多く、これに「心」「つながり」「思いやり」が続いた。
震災直後に米ジョージタウン大学のケビン・ドーク教授(日本近代史)が興味深い話をしていた。米軍の占領政策で日本の伝統文化が弱体化されたと思われがちだが、「文化の核は決して変わっていないと痛感した」というのだ(産経新聞11年3月25日付)。その文化の核であり、弱体化の標的にされたのが伝統的な家族だった。
今、再び弱体化の津波が襲っている。これは内なる震災である。その意味で、きょうは「恩愛の絆」という文化の核を取り戻す日としたい。



