【社説】N党議員懲罰 政治不信逆手に有権者欺いた

ガーシー参議院議員(NHK党提供)

NHK党のガーシー(本名・東谷義和)参院議員は、昨年夏の参院選挙で初当選して以降、一度も登院していないことから参院懲罰委員会に付され、最も重い「除名」の懲罰が科される可能性が高まっている。注目を集めたユーチューバーが立候補して当選するのは時代の流れかもしれないが、議員が民意の負託にまったく応えない事態を招いたことは遺憾である。

当選後も国会欠席続ける

ミニ政党ながらNHK党は地方議会での議席獲得を皮切りに国政進出し、参院選で2019年と昨年の2回連続して1議席を獲得している。昨年の参院選比例代表では125万票以上を獲得し、非拘束式の候補者名簿の中でガーシー氏が28万票以上を得て当選した。

それにもかかわらず、登院しないことで「除名」となれば、これからの参政権を考える上で後味の悪さを禁じ得ない。支持者は、国政でどのような活動をするか見届けたかったはずだ。

憲法58条は「院内の秩序をみだした議員」を懲罰できるとし、「除名」は出席議員の3分の2以上の賛成が必要だ。現憲法下で除名された例は占領時代の1950年、51年の2回で、不規則発言やヤジなど国会内での具体的な問題行為だった。今回、海外にいるガーシー氏は院内に存在せず、何も働いておらず、過去に例のないことだ。

これを「院内の秩序をみだした」と問題にしたのは他の与野党である。もちろん、最大の責任は登院しないガーシー氏にある。「逮捕される」恐れがあるとして、日本に帰国するつもりがないならば、国政での活動は不可能であり最初から候補者になるべきではなかった。とりわけ、約束した通り8日の参院本会議で「公開議場での陳謝」を果たさなかった責任は重い。

最も浮かばれないのは、NHK党やガーシー氏に投票した有権者ではないか。公共放送NHKの在り方を問うなどニッチな公約を掲げたNHK党が、少なからぬ無党派層を投票所に向かわせたことは事実だ。創党した元NHK職員、立花孝志党首の私党的な性格が否めなかったものの、NHK受信料などを巡って疑問を抱く有権者に一定の共感があった。

また、無党派層がミニ政党を投票先に選ぶのは、与野党の主要政党に対する政治不信が背景にあるためだ。このまま当選者の議会活動もなく「除名」となっては政治不信の解消どころではない。

しかも、立花氏はガーシー氏の問題で党首辞任を表明し、次期党首に元子役タレントの大津綾香氏を指名。党名を「政治家女子48党」に変更することも発表した。この新党名にはNHKを問題とする党の継続性が読み取れない。これまで立花氏を支持し投票した有権者の理解を得られるだろうか。1票を投じた有権者にとっては二重に欺かれた思いだろう。

 投票方式の見直し検討を

参院選比例代表制は政党名と候補者名の投票もできる現在の非拘束名簿方式に改められて久しい。小党がユーチューバーで集票を試みたガーシー氏の問題から、投票方式の見直しを検討することも考えられよう。