【上昇気流】(2023年2月23日)

ブナ林

ブナの森を「緑のダム」と呼び、豊かな森林のある日本を「水の回廊」と呼んだのは、写真家の水越武さん。福島県只見町はブナを町の木に指定するほどブナの森が豊かで、人々の暮らしはその恵みを受けている。

昨年、JR只見線の車窓からその森を見ることができた。それはこの土地独特の風景で、山々は雪崩で軟弱な岩盤が削られ、土壌があまり形成されないため、ミヤマナラの低木林と草付きの植生構造だ。

土砂は斜面下部や谷底に堆積し、ここに高木性の森林が形成される。ブナをはじめ、トチノキやカツラ、サワグルミなど畦畔(けいはん)樹種が生い茂る。ブナの幹は白っぽくて、枝は踊るように伸び伸びとしていた。

また、東京にある高尾山の麓を散策していると、同じブナ林を目にして驚いた。高尾山の北側、裏高尾を通る甲州古道だ。ブナは山の北側斜面に多く見られるが、これは正確にはイヌブナ。

両者ともブナ科ブナ属で、ブナは別名シロブナ、イヌブナは別名クロブナだ。やや黒い。日本海側と太平洋側では気候特性が違っているため、近縁種なのに環境に適応して分化し、太平洋側ではイヌブナがほとんど。

見た目はほぼ同じで、日本海側のユキツバキと太平洋側のヤブツバキと同じ程度の違いだ。それでもやはり日本海側のブナの方が、おおらかでゆったりとしているから、雪国の厳しい環境の方が合っているのだろう。人に人格があるように、木にも人格があるようだ。