
このところ、つえを持っている高齢者を見掛けることが多い。実際につえを持たないと歩けない場合もあるが、持たないと不安という人もいるようだ。つえを使わずにスタスタ歩いているのを見たこともある。
ところで、依存症で最近問題になっているのはスマートフォンだ。若い世代はスマホを忘れてしまうことへの恐怖心があるようだ。そんなことを思い出したのも、江戸時代から明治維新を経て、武士が刀を持てなくなった時代の証言集『戊辰物語』(東京日日新聞社会部編、岩波文庫)を読んだから。
明治9年の廃刀令で刀を奪われた武士の間では、腰が寂しいので代わりに仕込みづえが流行(はや)ったとある。常に持っていないと不安になるのは、それがもはや身体の一部のような認識があるからだろう。
特に、刀は武士の魂と言われるほどだったから、現代で言えばスマホ以上のものだったかもしれない。それだけ長年の習慣を改めることは難しい。
ただ、この時は廃刀といっても禁止されたのは帯刀することで、家で所持することは認められていた。刀と違ってほとんどの人が持っているスマホは、依存を止めるのは刀以上に大変だろう。
アンデシュ・ハンセン著『スマホ脳』(新潮新書)は、スマホ依存症によるうつ病の危険、集中力や学力の低下などの弊害を指摘している。つえは膝などの状態が良くなれば必要が無くなってしまうが、スマホ依存からの脱却の方はかなり難しそうだ。



