【社説】領空侵犯気球 法解釈変更し撃墜能力備えよ

わが国の領空で過去何度か確認されていた気球型の飛行物体について、防衛省が中国の無人偵察用気球と強く推定されると発表し、政府は領空侵犯した他国の気球や無人機の撃墜を可能にするため自衛隊の武器使用基準を緩和する。無人飛行物体を活用した現代の戦争の現実からも必要な措置であり、高高度を飛行する無人機の迎撃能力を備えるべきである。

アンテナや太陽電池も

これまで同じような形の大型気球は世界各地の上空で確認されており、わが国でも2019年11月に鹿児島県薩摩川内市、20年6月に仙台市、21年9月に青森県八戸市、昨年4月に沖縄県・座間味島などの上空を飛行していた。問題は正体不明のままに見過ごしており、危機感に乏しかったことだ。

米国の高高度の領空を飛行していた中国の偵察気球が米軍によって撃墜され、サウスカロライナ沖の海上で回収して調査した結果、高さ約60㍍、重さ約1㌧の気球には通信傍受のための複数のアンテナが搭載され、必要な電力を生み出す太陽電池パネルが装着されていた。

米国務省は中国軍と結び付きの深い中国企業が偵察用に開発した気球であると断定している。4日に撃墜された気球について、米軍および情報機関が中国・海南島で打ち上げられてから追跡していたといい、2日に米国の軍事的にも極めて重要な施設である西部モンタナ州の大陸間弾道ミサイル発射基地の上空を飛行したことから米国防総省がその存在を公表した。

米軍が回収した中国偵察気球の情報は、日本政府にも共有されたといい、わが国としても放置できない軍事的な偵察活動が含まれていたと認識したとみられる。これまで領空で確認された地域には陸海空の自衛隊施設があるほか、国内には在日米軍基地も点在しており、日米同盟関係にも関わる問題だ。

またロシアのウクライナ軍事侵攻後、明らかになったことは敵地の施設や人員・装備の配置などの情報を詳細に把握する無人機の活用が戦況を左右していることであり、戦争の形が変わったと評されている。情報戦に平時、有事の区別はなく、これまで以上に領空侵犯した気球や無人機への警戒度は上げてしかるべきだろう。

この点を政府は重視して対応方針をまとめており、自衛隊法84条に定める領空侵犯機への措置について有人機対応を念頭にした現行の「正当防衛」「緊急避難」に該当しない場合でも、必要と認める場合には武器使用ができるとした。

今後、自衛隊が具体的に運用する能力を持つことが課題になるが、F22戦闘機の空対空ミサイルで撃墜した米軍は、約1万8000㍍の高高度を浮遊した気球を標的とすることについて、非常に高度な技術を要したことを指摘している。

不当な偵察活動抑止を

航空自衛隊の井筒俊司航空幕僚長は、わが国でも戦闘機から空対空ミサイルを発射するなどの手段で撃墜は可能と記者会見で述べたが、新たに無人機、気球迎撃の訓練が必要となろう。能力を示すことで、不当な偵察活動を抑止していくべきだ。