【社説】臓器斡旋逮捕 海外での不透明な移植規制を

臓器移植を無許可で斡旋(あっせん)したとして、NPO法人の理事が臓器移植法違反の疑いで警視庁に逮捕された。

移植の斡旋業者摘発は初めてだ。海外での不透明な移植を規制するため、法改正などの対策が急がれる。

肝臓移植の男性死亡

逮捕容疑は、厚生労働相の許可を得ずに都内の男性患者がベラルーシで2022年2月に死体から肝臓移植を受けられるよう斡旋した疑い。ベラルーシで肝臓移植に必要な費用は1700万円程度とみられるが、理事は渡航や手術の費用として計約3300万円を男性患者から受け取っていたという。

男性患者はベラルーシから帰国途中に体調を悪化させ、東京都内の病院で家族から改めて生体肝移植を受けたが、回復しないまま、22年11月に死亡した。このほか、NPOの案内でベラルーシで肝臓と腎臓の同時移植を受けた男性患者も手術後に死亡している。

NPOの仲介を受けた患者の多くは帰国後、海外での不透明な移植を理由に国内の病院で受診を拒否されていた。NPOがこのことを知りながら海外での移植を勧めていたことは、患者の健康や生命を軽視するものであり、極めて悪質である。

多額の費用に関しても、経費を差し引いてもNPOに大きな利益が残ったとみられる。移植を切望する患者の弱みに付け込み、必要以上の費用を支払わせたのであれば実に卑劣だと言わざるを得ない。

日本ではこれまで海外での移植を仲介する活動が野放しにされてきた。臓器移植法は許可団体のみが監督対象で、NPOなどには調査権限が及ばない。臓器斡旋の禁止対象も脳死を含む死体からの移植だけで、生体移植は含まれない。

一方、海外での移植手術は、貧しく弱い立場の人から臓器提供を受けることにつながるなどとの指摘がある。特に中国では、ウイグル族などから強制的に摘出された臓器が患者に移植されている実態がある。日本人が途上国などで金銭を支払って移植を受けることに対しては国際的な批判がある。

国際移植学会が08年に採択した「イスタンブール宣言」は、不透明な海外での移植の禁止を掲げ、自国内での臓器提供の増加を求めている。これを受けて臓器移植法が09年に改正され、それまで認められていなかった15歳未満の臓器提供が可能となった。

それでも、国内ではドナー(臓器提供者)不足が深刻だ。日本臓器移植ネットワークによると、国別の人口100万人当たりのドナー数はスペインが40・20、米国が41・88だったのに対し、日本は0・62と極めて少ない。このことが、海外での移植が相次ぐ一因となっている。

ドナー増やす取り組みを

日本でも臓器を提供したいと考える人は少なくない。政府は臓器提供の「意思表示」を促すため、運転免許証やマイナンバーカードに意思の記入欄を設け、インターネットでの登録も可能にした。

こうしたことを周知徹底し、ドナーを増やす取り組みを進める必要がある。