中国人女性の無人島購入で波紋 「軍事拠点化」へ懸念広がる

有効性乏しい土地規制法

安保上の「例外規定」設けず

沖縄県・屋那覇島の土地を購入したとする中国人女性がSNSに投稿した動画=中国のSNSより

中国人女性が沖縄県の屋那覇(やなは)島(伊是名(いぜな)村)を購入した問題で、同島が安全保障上重要な施設の周辺や国境離島などの土地利用を規制する「重要土地等調査法(土地規制法)」の対象外となっていたことなどから、懸念が広がっている。(沖縄支局・川瀬裕也)

歴史戦の新要所と化す恐れも

事の発端は2月3日、30代の中国人女性が、日本の無人島を購入したとしてSNSに投稿した動画だ。島を背景に空撮をしたり、海岸沿いを歩く動画などを公開。「女性島主になった」とアピールした。この動画に対し、中国のSNSでは「羨ましい」「私も欲しい」などと羨望(せんぼう)の声が上がっているという。

複数の中国メディアなどによると、購入されたのは沖縄県の沖縄本島北方の伊是名島の南西約1㌔㍍に位置する面積約74万平方㍍の無人島「屋那覇島」で、この約半分に当たる38万平方㍍を女性が親族の会社名義で落札した。東京都港区に本社を置く同会社のホームページには「令和3年2月沖縄県の屋那覇島を取得」とあり、「リゾート開発を進めている」と書かれている。具体的な購入額は不明だが、中国メディアなどによると、島は入札時、開始価格が60万元(約1100万円)ほどだったという。

この件を知った日本国内のネットユーザーなどからは「軍事施設を造られたらどうするのか」「他の無人島もどんどん買われてしまうのでは」など、危機感を募らせる声が噴出している。

日本政府は2021年6月、外国人の土地買収などを規制するため、自衛隊基地や原子力発電所など、安保上重要な施設の周辺や国境離島などの土地利用を規制する「重要土地等調査法(土地規制法)」を成立させているが、松野博一官房長官は2月10日の記者会見で屋那覇島について、「本法(重要土地等調査法)の対象とはならない」とコメント。13日には、「関連動向を注視する」と述べた。

同法の有効性については成立当初から疑問視する声があった。同法が定める「特別注視区域」での土地取引に際し、売買当事者に事前の届け出を義務付けてはいるものの、売買行為自体を禁止しているわけではないからだ。また、規制についても土地利用について国が「調査する」にとどめ、所有規制や土地収用にまでは踏み込んでいない。

外国人の土地取得には国際法上、一般的に「相互主義」が用いられる。中国国内において、日本人による土地の購入は禁止されていることから、日本の土地を中国に売却することを禁じても本来問題は生じないと考えるのが普通だ。にもかかわらず、中国人が日本の土地を入手することができたのはなぜなのか。

この問題の根底には1994年に結ばれた「GATS協定(サービス貿易に関する一般協定)」がある。この協定では、日本人と外国人の待遇に格差を設けることを禁じた「内国民待遇の保証」が定められている。ただ、加盟時に安全保障上の「例外規定」として土地取得に関する留保を行っておけば、土地の購入を禁ずることは可能だった。

しかし当時、海外からの投資を呼び込みたいとして日本だけがこの例外を設けず協定に署名。この結果、外国人は日本人と同様に土地取引を行うことが可能になり、現在に至るまで外国資本による日本の不動産大量購入が続く原因となっている。

この件について、沖縄の保守系シンクタンク日本沖縄政策研究フォーラムの仲村覚理事長は、重要土地等調査法の規制範囲の狭さや規制の緩さなどを指摘し、「今(島を)購入した人が善良な人であっても、有事の際は中国共産党が自由に(島を)使うことが可能になる」と警鐘を鳴らす。「中国に配慮し、骨抜きの法案を通した自公連立政権がもたらした国難だ」と非難した。

在沖米軍の嘉手納空軍基地から直線距離で約60㌔㍍の位置にある屋那覇島をもし中国が軍事拠点化した場合、リスクは計り知れないものとなる。

また仲村氏は、屋那覇島が属する伊是名村は琉球国王・第二尚氏の初代・尚円王の出生地であるとして、「新たな歴史戦の要所にされる可能性もある」と歴史歪曲(わいきょく)工作への危機感も示し、宗教的または歴史的に重要な場所についても安全保障と同一視し、法的に守る必要があると強調した。

土地規制法が「特別注視区域」と定める離島の中には、今回の屋那覇島のほか、中国の海警局の公船が領海侵入を繰り返す、石垣市の尖閣諸島すらも含まれていない。安全保障を守るための法としての役割が正しく機能すべく、同法の見直しと強化が急がれる。