
どんな会社にも、仕事一徹で一家言を持ち自分の流儀にこだわる職人気質(かたぎ)の先輩がいるものだが、新聞はその宝庫かもしれない。
各分野の記者から始まって、校閲、整理、印刷など各部門にそんな御仁がどんと構えている。新入社員には越えなければならない大きなハードルになるが、会社全体で見ると、大層頼りになる面々であることは間違いない。
まだ原稿が手書きだった時代には、そんな記者がデスクをすると原稿が真っ赤になって返ってくる。校閲に行くとさまざまな表記がまた直される。整理に回ると、驚くような見出しが付いて上がってくる。編集に携わると、そんな御仁からの指摘が実は宝物であったことをよく実感する。
今月11日は「国民の祝日に関する法律」に定められた建国記念の日だった。初代の神武天皇が即位したとされる(紀元前660年2月11日)日(戦前の紀元節)に「建国をしのび、国を愛する心を養う」日だ。略して建国記念日でもいいのではないかと思うが、いつも建国記念の日に直された。
最初は、略しても構わないのではないかという思いが湧いたので調べてみると、1966年の制定前に、日本書紀の内容の信憑(しんぴょう)性を巡って論争があり、神武天皇が即位したとされる日を祝うのではなく、その日に「建国をしのび、国を愛する心を養う」日として祝日になったという。
近世に独立し、その日がはっきりと分かる国の建国記念日とは違って、神話の時代までさかのぼる126代にわたる天皇と皇室を戴(いただ)いてきた悠久の歴史を持つ日本ならではの祝日であるわけだ。
今年、建国記念の日に当たって、ある通信社は「建国記念日」と書いた記事を配信した。職人気質の御仁がいなくなっているのではないかと心配になる。
(武)



