【上昇気流】(2023年2月12日)

公園で雪だるまを作る子供たち=10日午後、東京都杉並区

「大雪にショートケーキの如き街」(川口咲子)。東京に雪が降り、屋根が白に覆われた。雪国に住んでいた者には、雪は当たり前だったが、東京ではそう降ることもないので新鮮な気持ちと億劫(おっくう)な思いで複雑な心理になる。

雪国だと、雪によって生活が閉ざされるために、春への気持ちが徐々に高まっていく。雪があまり降らなくなると、次第に春への期待で解放感が大きくなる。東京に移り住んでからは、そうした区切りはなく、どこか中途半端な感じだ。

スーパーに春の芽吹きを伝える食材が並ぶので、それが季節感を伝えている。特にフキノトウなどはその代表的なもの。苦みがあるのが春の到来を実感させてくれる。

花で言えば、梅の花がその代表かもしれない。梅の花はどこか控えめで気品を持つ花である。梅の名所である水戸市の偕楽園では「梅まつり」が開催されている。

そのほか春の花と言えば、タンポポや菜の花、そして桜がある。中でも、鮮やかな色彩で辺り一面を染める菜の花は印象的だ。これから春の花のリレーが始まるのが待ち遠しい。もちろん、最後に締めくくるのは桜である。

桜の花の下で死にたいと歌を詠んだのが西行法師であることは有名。そして菜の花を好んでいたのは、1996年のきょう亡くなった作家の司馬遼太郎である。忌日は「菜の花忌」と呼ばれている。まだ菜の花の時期には早いが、どこか駘蕩(たいとう)とした司馬の面影が春を呼び寄せている気がする。