
1967年開業で東京・渋谷のシンボルとも言われた東急百貨店本店が閉店し、約55年の歴史に幕を下ろした。この間、渋谷の現在の繁栄までには紆余(うよ)曲折があった。
71年には極左暴力集団が大挙して火炎瓶や石を投げ付け、交番などを襲撃、21歳の警察官が亡くなる渋谷暴動事件が起きた。その後、平和な街のイメージ回復にずいぶん苦心が要った。道路の補修や舗装に、石畳は剥がれやすいという理由で控えられたりもした。
しかし80年代に地元商店街の意向もあり、JR駅前の渋谷センター街で六角形の敷石を使ったしゃれた街路にする工事が行われた。当時、その一件を取材し記事の最後に「時代は変わろうとしている」と書いた。
そして東急本店の一角に89年、劇場や美術館を備える複合施設「Bunkamura」が生まれ、文化の薫りがする独自の商圏に。渋谷駅は大学や郊外をつなぐ電車・バスのターミナル駅となり、東京圏拡大に比例して栄えた。
一方、昔から映画街があり、夜は駅周辺のあちこちに屋台が出た。映画を見終えた評論家やジャーナリストらが落ち合う所だった。
同本店の跡地には外資系の高級ホテルが建ち、訪日外国人や富裕層を意識した街づくりが行われるという。過去が払拭(ふっしょく)され、人やものが入れ替わる周期は約40年と言われる。一つの世代が社会に出てから引退するまでの期間がそれぐらいだからだ。渋谷駅頭に立ち、ここはどこなのかと惑う時が来るのだろうか。



