ミャンマー国軍が力で実権を掌握してから丸2年が過ぎた。クーデター政権は強権統治の鞭を反政府運動に容赦なく振り下ろし、ミャンマーの人権団体によると死者2940人、拘束者は1万3000人を超えた。
混迷を深めるミャンマーに、西側社会は打開策を探しあぐね手詰まり感がぬぐえない。
中露がバックアップ
市民への打撃を避けるため、国軍関係者や関連企業に的を絞った米欧の制裁は実効性に乏しい。頼みの東南アジア諸国連合(ASEAN)はミャンマー軍政と「暴力の即時停止」などの合意を取り付けはしたものの、クーデター政権は口約束だけで実行せず膠着(こうちゃく)状態が続く。
もっと強い圧力を主張する国もあるが、問題はASEAN諸国内部で足並みがそろわないことだ。昨年11月のASEAN首脳会議では、ミャンマーの参加資格停止案も出たが、まとまらなかった。インドネシアやマレーシア、シンガポールなどは国軍に批判的だが、タイやベトナム、ラオスなどは融和的でASEANとして一致した圧力を加えられていない。
国軍と民主派の双方にパイプを持つ日本は、対話路線を取るものの成果は上がっていない。もたもたしている西側社会の間隙を縫う形で、中露は武器供与と経済支援の2本柱でクーデター政権のバックアップに動く。
有事にインドシナ南部の流通回廊を遮断されるマラッカリスクを抱える中国にとって、雲南省からインド洋に陸路で抜けられるミャンマーは地政学的要衝だ。またソ連崩壊後、南進を国策とした中国は、ミャンマーをラオス、カンボジアに次ぐ第3の“衛星国”にしたい意向だし、ロシアにとっては有力な武器輸出市場だ。中露がミャンマーを自陣営に組み込むメリットは大きなものがある。
一方、強権統治の既成事実化を進めたいクーデター政権とすれば、国連安保理常任理事国の中露を後ろ盾とすることで国際的孤立から脱却しようとの意向がある。昨年2月、ロシアがウクライナ侵略に動いたことで、国際社会の関心はそちらに移り、ミャンマーへの注目度が相対的に低下したことも国軍には都合がいい状況にある。
このまま放置していればウクライナ戦争の影に隠れて、ASEANの一角が崩れかねない。本来、8月に予定されていた総選挙もずるずると先延ばしにされ、総選挙が実施される頃には、アウンサンスーチー氏が率いてきた国民民主連盟(NLD)も骨抜きにされ、形だけの民政復帰は危ういものになる。
わが国は今年、先進7カ国(G7)の議長国を務める。民主主義陣営を束ねるベルトを強く引き締め、外部から侵攻を受けるウクライナだけでなく内側から力の攻勢を受けるミャンマーも守る責務がある。
無関心で増長させるな
国軍は、NLDが改選議席の8割を獲得した2020年11月の総選挙で大規模な不正があったと主張してクーデターを強行した。ミャンマー情勢への無関心はクーデターの容認につながり、民主化の遺産を力でつぶそうとしている軍事政権を増長させるだけだ。



