2022年に警察が把握(認知)した刑法犯は前年比5・9%増の60万1389件で、20年ぶりに前年を上回ったことが警察庁の犯罪情勢統計(暫定値)で分かった。警察庁のアンケート調査では「日本の治安は良い」と回答した人の割合が低下した。警察は取り締まりを強化し、国民の不安を減らすべきだ。
コロナ対策緩和が影響か
22年の街頭犯罪は20万1619件で、前年比14・4%増となった。特に自転車盗や路上での傷害、暴行が増えた。
刑法犯認知件数は、防犯機器の普及や警察の取り締まり強化などによって02年の285万件をピークに減少が続き、21年まで7年連続で戦後最少を更新。20~21年は新型コロナウイルス対策の行動制限などで街頭犯罪が大幅に減少した。22年は緩和で増加に転じた可能性がある。
ただ、深刻なのは街頭犯罪だけではない。特殊詐欺は2年連続で増加。強制性交等は罰則を強化するなどした17年の刑法改正以降で最多となった。サイバー攻撃も急増している。
国民も治安の悪化を実感しているようだ。警察庁が昨年10月に実施したアンケート調査で「日本の治安は良い」と回答した人は68・6%で、前年の75・9%より減少した。また「ここ10年で日本の治安は悪化した」と回答した人は67・1%に上り、前年の64・1%より増加。理由として挙げた犯罪は無差別殺傷事件が最も多かったという。これは7月の安倍晋三元首相銃撃事件が影響したとみていい。
個人による「ローンウルフ(一匹おおかみ)」型のテロは、欧米でも大きな問題となっている。本来であれば、こうしたテロへの対策についてもっと論議されるべきだ。
しかしこの事件で殺人などの罪で起訴された山上徹也被告に関しては、母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に多額の献金をして家庭が崩壊したことで教団に恨みを募らせ、安倍氏が教団とつながりがあると思い込んで犯行に至ったと報じられた。このため主要メディアは旧統一教会に対する批判に明け暮れ、テロ対策にはほとんど関心が向けられなかった。政府やメディアは治安悪化に対する国民の不安を放置していると言っていい。極めて遺憾だ。
特殊詐欺を巡っては、フィリピンを拠点とした特殊詐欺グループの幹部らが、SNSで高額報酬などとうたう「闇バイト」で募集したメンバーを使って、日本全国で強盗事件を引き起こした。幹部らは18年11月~20年6月に、日本の高齢者ら約2300人から計約35億円を詐取した疑いが持たれている。
一方、先月には東京都狛江市でグループが関与したとみられる90歳女性強盗殺人事件が発生した。調査はグループによる強盗が判明する前に行われたため、国民の「体感治安」はさらに悪化している恐れがある。
「家族の絆」弱体化を懸念
虐待の疑いで警察が児童相談所に通告した18歳未満の子供は7・1%増の11万5730人、配偶者などパートナーからの暴力(DV)の相談件数は1・7%増の8万4493件で、いずれも過去最多だった。「家族の絆」の弱体化が懸念される。



