福岡市博多区のJR博多駅近くで女性が殺害された事件で、飲食店従業員の男が殺人容疑で逮捕された。
女性は昨年10月以降、男によるストーカー被害を福岡県警に計4回相談していた。最悪の事態を防ぐことはできなかったのか検証すべきだ。
女性を刃物で執拗に襲う
現場近くの防犯カメラには、男が女性に覆いかぶさり、刃物で襲う様子が映っていた。女性の遺体には上半身を中心に十数カ所の刺し傷があり、執拗(しつよう)に襲われたとみていい。
女性は男と交際中だった昨年10月に「携帯電話を取られた。相手と別れたい」などと警察に相談。男が女性の職場に押し掛けて「何で警察に相談した。仕事がなくなる」ととがめたため、11月にはストーカー規制法に基づく禁止命令が出された。
女性は事件当時、県警から貸与された110番通報装置を所持していた。しかし、突然刺されたために使えなかった可能性がある。
ストーカー規制法は、埼玉県桶川市で1999年10月、ストーカー被害を受けていた女子大学生が刺殺された事件を機に2000年5月に制定された。12年11月に神奈川県逗子市で女性が殺害された事件では、大量のメール送信が規制されていなかったことが問題となり、13年6月に法改正された。16年12月の改正ではインターネット交流サイト(SNS)への投稿、21年5月には全地球測位システム(GPS)機器の悪用も規制対象となった。
それでも、被害は後を絶たない。全国の警察が摘発したストーカー事件は01年に1063件だったが、21年は2518件に増えている。今回も卑劣で身勝手な男の犯行を防ぐことができなかった。一層の対策強化が求められる。
注目されるのは、ストーカー加害者に精神医学的なアプローチで治療やカウンセリングを実施するプログラムだ。加害者には、被害者に執着するといった思考の偏りや感情をコントロールできないなどの特徴がある。薬物は使わず、ゆがんだ考え方や行動を変えさせる「認知行動療法」でアプローチする。適切な治療を行えば再犯率も低下するという臨床結果もある。
警察は16年から、連携する医療機関での受診を加害者に働き掛ける取り組みを開始。21年は前年比111人増の993人で過去最多となった。ただ働き掛けに強制力はなく、受診率は15%前後にとどまる。「自分には必要ない」と考えるほか、費用が自己負担のため拒むケースがあるという。
もっとも、警察に促されて受診を承諾する加害者には更生の兆しがある。病理の深い人ほど治療への拒否反応は強いと言えよう。
不幸な結果を招くな
欧米では、ストーカー加害者に対する強制治療が導入されている。
日本では「人権侵害」との批判も根強いが、治療を受けられなかったために凶悪犯罪を起こす結果となれば、被害者はもちろん、加害者にとっても不幸なことである。日本でも強制治療を検討すべきだ。



