【社説】コロナ「5類」へ 足元の感染状況見極め検討を

岸田文雄首相は、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けについて、今春に現在の「2類相当」から季節性インフルエンザなどと同じ「5類」へ引き下げることを検討するよう関係閣僚に指示した。

5類に移行すれば、社会経済活動が正常化し、打撃を受けた日本経済の活性化にもつながろう。一方、現在の「第8波」でも死者数や救急搬送の困難事例は高い水準が続いており、引き下げの判断には慎重さも求められる。

致死率は大きく低下

感染症法では症状の重さや感染力の強さから、感染症を危険度の高い順に1~5類に分類。5類に引き下げると、新型コロナ対策の特別措置法に基づく「緊急事態宣言」「まん延防止等重点措置」などは発令できなくなる。また医療費は一部で自己負担が生じるため、ワクチン接種や医療機関への財政措置などは移行期間を設けた上で、段階的に縮小する案が出ている。

新型コロナは2020年1月に国内で初めて感染が確認された。感染者の累計は3000万人以上、死者は約6万5000人に上る。ワクチン接種が進んだこともあって、80歳以上の致死率はデルタ株が流行した21年の7・92%から1・69%に大きく低下。重症化率も大幅に下がっている。

一方、足元の感染状況は高い水準で推移しており、今冬に発生した第8波では1日当たりの死者数が500人を超えた。患者の搬送先がすぐに決まらない「救急搬送困難事案」も過去最多を更新し続けており、医療提供体制は逼迫(ひっぱく)している。

5類に引き下げれば、患者は一般の病院でも受診できるようになる。医療の逼迫を回避できると期待されるが、感染対策が不十分なため、実際には患者を受け入れられない医療機関が出てくる懸念も残る。

気掛かりなのは、首相の指示の背景に内閣支持率の低迷が続くことへの焦りがあることだ。社会経済活動の正常化に道筋を付け、政権浮揚を図るとともに、5月に広島市で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)でコロナ禍克服をアピールする思惑も透けて見える。

首相は「ウィズコロナの取り組みをさらに進め、平時の日本を取り戻していく」と宣言したが、5類への引き下げに前のめりとなってはなるまい。確かに5類となれば、コロナ禍で打撃を受けた企業にとっては朗報であり、社会全体も活気づくだろう。だが引き下げには感染状況を注意深く見極め、実態に即した検討を行う必要がある。

マスク着用に関して、政府は既に屋外では原則不要としている。政府内には5類への引き下げと同時に屋内でも原則不要とする案があるが、発熱などの症状がある人や高齢者施設など感染リスクが高い場所に関しては取り扱いを検討するとしている。感染対策の重要性は当面変わらず、マスクも状況に応じた着用が求められる。

緊急事態条項の創設急げ

コロナ禍の克服を目指すだけではならない。

コロナ禍を教訓に、首相は憲法の緊急事態条項創設に向けた取り組みを急ぐべきだ。