司法改革に反発、8万人抗議集会 イスラエル 国会の権限を強化

ネタニヤフ首相は「選挙公約」主張

9日、イスラエル国会での与党リクードの会合で演説するネタニヤフ首相(UPI)

イスラエルで14日、ネタニヤフ新連立政権が進めようとしている司法制度改革に対し、市民8万人以上が反対の声を上げた。改革案には国会が最高裁判所の判断を覆すことが可能となる条項が含まれており、民主主義における司法の独立を脅かす恐れから批判が高まっている。一方、ネタニヤフ首相は、司法制度改革は選挙公約だとしている。(エルサレム・森田貴裕)

レビン法相が4日、司法制度改革案を発表した。改革案には、最高裁が国会で制定された法律を基本法(憲法に相当)に違反すると判断した場合でも、国会が単純過半数で最高裁の判断を覆せるようになる「オーバーライド条項」が盛り込まれた。また、裁判官の任命にも、政権により多くの権限を与えた。

アナリストらによると、この条項があれば、国会がネタニヤフ首相の汚職容疑を取り消すことができるようになるという。ネタニヤフ氏は2021年、三つの事件で詐欺、背任、贈収賄などの容疑で起訴され、公判は現在も続いている。本人はすべての罪状を強く否定し、政治的迫害だとして法執行機関や裁判所を非難している。

これに対しテルアビブで7日、左派市民数千人が抗議デモを行った。抗議者らは、「民主主義の危機」「反ファシズム」などと書かれたプラカードを掲げ、新政権を「極右」と非難。「改革案は民主主義と自由を脅かす」と抗議した。労働党のミハエル党首など左派の国会議員数人が演説。一部の抗議者らは怒りを募らせ、改革案は「クーデターに相当する」と非難した。

野党イェシュアティド党首のラピド前首相は9日、「改革案は民主主義の排除に相当する」と述べ、「過激な政権交代だ」と非難。「われわれの戦いだ」として、支持者に街頭で抗議デモを行うよう呼びかけた。野党国民統一党の党首であるガンツ前国防相も9日、「ネタニヤフ氏は内戦に向かっている」と非難した。

これに対し、ベングビール国家治安相率いる極右「オツマ・ユディット」の議員が10日、野党指導者らを「国家に対する反逆行為だ」と非難し、野党指導者らの逮捕を求めた。

テルアビブの裁判所前では12日、弁護士ら約400人が結集し、「この危険な改革案は、民主主義に対する脅威だ」などと抗議した。

14日には、テルアビブやエルサレムで、司法制度改革に反対する大規模な抗議集会が2週連続で行われた。ガンツ氏は前日に、政界と全国民に対し、イスラエルの民主主義を守るためテルアビブの抗議デモに参加するよう呼びかけていた。テルアビブのハビマ広場では、激しい雨が降る中、左派市民8万人以上が抗議集会に参加した。抗議集会には、元野党党首のリブニ元法相、バラク元首相のほか、アラブ系政党ラアムのアッバス党首など複数の政党の党首らも参加した。

リブニ氏は、ネタニヤフ氏の汚職裁判に言及し、「新政権は民主主義の制度を破壊しようとしている。一緒に国を守ろう」と訴えた。会場からは大きな歓声が上がった。ガンツ氏はツイッターで「クーデターを防ぐため合法的な方法で現政権と戦う」と述べた。ラピド氏は、抗議集会での演説はガンツ氏を含め許可されていなかったため、テルアビブの抗議集会には参加しなかった。

エルサレムの大統領公邸前には、市民数千人が集まり、ヘルツォグ大統領に声明を出すよう求めた。ヘルツォグ氏は15日、司法制度改革案をめぐる白熱した議論は「国を引き裂く」と警告。「司法制度はイスラエルの民主主義の基盤だ」とした上で、「歴史的な憲法上の危機を回避し、国内で続く亀裂を止めるために今後も調停に取り組む」と語った。

一方、ネタニヤフ氏は15日の閣僚会議で「有権者が投票した選挙の公約の一つに司法制度の改革がある」と述べ、改革案に対する抗議を一蹴。「内戦や国家破壊につながる扇動的なスローガンだ」として警鐘を鳴らしている。