ブラジルで昨年10月の大統領選の結果に異議を唱えるボルソナロ前大統領の支持者ら約4000人が、首都ブラジリアの連邦議会や大統領府、最高裁に侵入して破壊行為を働いた。
選挙の結果を暴力で覆そうとすることは民主主義への挑戦であり、決して許されない。
約1500人を拘束
この事件では約1500人が拘束された。ルラ大統領は「野蛮なファシストの行為だ」などと強く非難して「前代未聞の破壊行為を厳しく罰する」と強調。ボルソナロ氏の支持者を集めた資金提供者も追及していくと言明した。
さらに、米国に滞在中のボルソナロ氏を「ソーシャルメディアなどを通じて支持者らを煽(あお)っている」などと批判した。ボルソナロ氏の支持者の一部は、昨年の大統領選を無効だと主張して国軍基地前などでデモを続けてきた。
一方、ボルソナロ氏はツイッターで「略奪や公共施設への侵入は法を逸脱している」と指摘。その上で「現在のブラジルの長による私への根拠のない非難は受け入れられない」とルラ氏に反発した。
最高裁は、治安維持の職務を怠った疑いでブラジリア連邦直轄区のトレス前公安局長に対する拘束命令を出した。ボルソナロ政権下で法務・公安相を務めたトレス氏が、襲撃を黙認したのであれば言語道断である。
今回の事件は、2年前に米国で起きたトランプ前大統領の支持者らによる連邦議会襲撃事件を彷彿(ほうふつ)とさせる。どのような理由があっても暴力は容認できないが、米国の事件の背景には大統領選での郵便投票への強い不信感があった。
ボルソナロ氏はかねてブラジルの電子投票制度に懐疑的な発言を繰り返し、政権移行は容認したが敗北宣言はしていない。電子投票に選挙の公正性への疑いを招く要素があるとすれば、ルラ政権には信頼性を向上させる取り組みが求められよう。
今回の事件では、ブラジル社会の分断が浮き彫りになったと言える。右派のボルソナロ氏は富裕層や中間層の支持を集めているのに対し、左派のルラ氏はかつて大統領を務めた際に低所得者への現金給付を行うなど貧困層を支持基盤としている。ただ、こうした貧困対策は反発も招き、ボルソナロ氏が18年大統領選で勝利する一因となった。
南米では左派の勢いが増し、10カ国のうち7カ国で左派政権が誕生している。米国の存在感が低下し、覇権主義的な動きを強める中国などの影響力が拡大することが懸念される。今年4月のパラグアイ大統領選に出馬する左派候補は、当選すれば台湾と断交し、中国と国交を結ぶ意向を明らかにした。
ルラ氏は分断克服を
一方、ペルーでは昨年12月にカスティジョ前大統領が罷免、拘束されたことに抗議するデモが断続的に続いており、デモ隊と治安部隊との衝突で死者も出るなど混乱が生じている。
ルラ氏は南米最大の国であるブラジルの指導者として、今回のような事件の再発防止を徹底するとともに、社会の分断を克服して民主主義をさらに成熟させる必要がある。



