【上昇気流】(2023年1月12日)

ハドソン湾の流氷

カナダのハドソン湾西部の町チャーチルに、海水が氷結する晩秋、動物写真家らが集合する。その南にケープチャーチルがあって、そこの海岸にたくさんのホッキョクグマが集まってくるからだ。

この小さな町に行く陸路はなく、飛行機を使うしかない。動物写真家の前川貴行さんがフリーとなって最初に撮影した舞台が、このツンドラの原野。撮影用のバギー車で移動してクマを探したという。

ホッキョクグマは6月上旬から11月下旬まで、陸地に上がって動植物を食べて飢えをしのぎ、晩秋になると、アザラシ狩りをするためにここに来て、海水の氷結を待つ。お腹(なか)はペコペコだ。

写真集『クマたちの世界』(青菁社)には、彼らが雪の上で転げ回ったり、気持ちよさそうに眠ったり、授乳したりしている場面が収められている。「子育てをする母グマが示す愛情と献身には、人のそれと何ら変わるものは見当たらない」と前川さんは記す。

前川さんの取材は2000年だったが、ヌナブット準州の報告書によると、ハドソン湾西部に生息するホッキョクグマは、この5年間に27%減少した(小紙昨年12月29日付)。21年時点で618匹だった。

1980年代と比べるとほぼ半減したそうだ。気候変動が生息環境に影響を及ぼしたとみられている。冒険家の植村直己が、北極圏1万2000㌔を犬ぞりで旅したのは74年から76年にかけて。だが今や温暖化で海は凍らず、こうした冒険は不可能となった。