子育てと田舎暮らしを体験「遊学」 秋田県由利本荘市とみどり保育園が連携

園内にある薪ストーブを囲む家族と子供たち

秋田県由利本荘市は県外の都市部に住む家族を対象に昨秋、子育てと田舎暮らしを10日間程度体験してもらう「ゆりほん保育園遊学」を初めて実施した。移住を検討する家族もいるなど好評で、受け入れた東由利地域も交流を通して活気づいた。少子高齢化が進む中、にぎわい創出につながる事業として継続する意向だ。(市原幸彦)

リモートの場を提供し時間共有

将来的な移住を検討する家族も

豊かな自然が都市部にはない魅力に

豊かな自然の中で子供を伸び伸びと育てられる保育環境が、都市部にはない魅力になるとして、同市は、東由利での暮らしを体験してもらい、市と継続的に関わる「関係人口」の拡大とそれによる地域活性化、将来的には移住への発展も視野に保育園遊学に乗り出した。

社会福祉法人が設置する「みどり保育園」(畑山玲子園長)と市が連携して実施。受け入れ期間は7日以上14日以内。滞在する東由利の市営住宅は有料で保育料も徴収する。同県と縁のない東京都内の4家族から応募があった。2~6歳の園児7人、父母8人、祖父母2人の計17人が参加。10月3~29日に入れ替わりで、それぞれ8~11日間滞在した。4家族とも保護者はリモートワークをした。

保育園の広い縁側には薪(まき)ストーブがあり、参加家族、保育園、そして地域住民を温かくつないでくれた。調理の煮炊きの時には子供たちが集い、おいしそうな匂いに目を輝かせ、高く立ち込める白い湯気に歓声を上げた。子供たちが園庭に飛び出ると、大人は温かい飲み物を持ち寄り、そして、いろいろなことを語りだしていた。「その様子を見ているとなんとなく懐かしくもあり、心から良いものだなと感じた」と担当した市の移住支援課の職員は語る。

子供たちは広い園庭や敷地内に小川があることに驚き、存分に遊び回った。魚のつかみ取りやコメの脱穀、なべっこ遠足(少人数グループで屋外炊事する)も体験。親子と地域の交流ではサツマイモの収穫、きりたんぽ作りなどを楽しんで感激し屋外炊事をしていたという。「東由利の日常的な保育や行事が都市部の住民にとって貴重な体験となった」(同職職員の報告)。

さらに、家族で時間を共有し絆(きずな)を深めてもらおうと、園内にリモートワークの場を提供。都内では見られなかったという生き生きとした子供の姿を目にしながら、保護者らは仕事に打ち込むことができた。地元園児にとっても新しい仲間は新鮮で率先して面倒を見るなど刺激になった。住民も取れたての野菜を提供するなど歓迎し、積極的に交流した。

滞在期間も長く、交流密度も高かったことから、留学家族の多くは当地に深い思い入れを抱き、次の留学を申し込む家族や短期移住を検討している家庭もあるという。小学校以降になると、学校行事や習い事など、子供の方が忙しくなって移動もままならなくなる。また、小中学生でよくある里山留学などでは、準備や期間が大ごとになるが、保育園遊学は簡便に利用できる。

参加したITコンサルティング会社経営のОさんは妻と4歳の長男、2歳の長女の4人で参加。「新鮮な経験で、とても満足した」と感想を寄せた。他に「素朴なもてなしが心地よかった」「受け入れてくれた人の人柄が魅力的だった」「また訪れたい」「ふるさと納税をしたい」と好意的な声が寄せられた。一方で「現金前提の社会が残念。ATMなどが遠い地方こそキャッシュレスにする意味が大きい」「ネット環境を充実してほしい」などの要望があった。

全国では、民間会社と自治体との連携による「保育園留学」があり、北海道厚沢部町、新潟県南魚沼市、岐阜県美濃市、熊本県天草市などで行われており成果を挙げているが、同市のように自治体独自で行うのは珍しい。費用も割安だ。

移住支援課では「園児たちも短期間ではあったが新しい友達ができた喜びで今までに見せることの無い社会性の育ちを表現した子もいた。今回の成果をもとに、来年度以降も受け入れ枠や期間の拡大などを含めて事業を継続したい」としている。