ベネディクト16世死去 前ローマ教皇 13年生前退位  

ミサを行う前ローマ教皇のベネディクト16世=2010年6月、バチカン市(EPA時事)

【ウィーン小川敏】ローマ・カトリック教会前教皇で名誉教皇のベネディクト16世が31日、死去した。95歳だった。バチカン教皇庁が発表した。

ドイツのバイエルン生まれのベネディクト16世は2005年、ヨハネ・パウロ2世の後任として第265代教皇に選出された。950年ぶりにドイツ人教皇の誕生ということでドイツでは大歓迎されてきたが、13年2月、「教皇職を務めるだけの体力がなくなった」として生前退位を発表し、世界を驚かせた。

私設秘書を務めてきたゲオルク・ゲンスヴァイン大司教によると、「ここ数年肉体的にはかなり弱まっていたが、その知性は最後までシャープだった」という。

近代の教皇の中でも最高峰の神学者と呼ばれ、学者教皇と呼ばれてきた。教皇選出前(ヨゼフ・ラッツィンガー枢機卿と呼ばれた)、バチカンでは「教義の番人」といわれ恐れられてきた教理省(前身・異端裁判所)長官を務め、新ミレニアムの00年の記者会見では教会の過去の不祥事をヨハネ・パウロ2世に代わり正式に謝罪するなど、世界のローマ・カトリック教会の中心的人物として活躍してきた。

ただ、22年1月20日、ミュンヘン・フライジンク大司教区の大司教時代(1977~82年)、聖職者の未成年者への性的虐待問題に関連し、「適切に対応しなかった」という報告書が公表され、犠牲者から訴えられた。犠牲者の1人が今夏、トラウンシュタイン地方裁判所に民事訴訟(いわゆる宣言的訴訟)を起こした。

生前退位を考え始めたのは12年秋ごろとみられている。理由は「健康問題」と言われてきたが、「何らかの出来事、ないしは啓示を受けたのではないか」と一部で推測されている。前教皇は「神に何度も問い掛けたが、もはや教皇としてその職務を履行できない」として、13年2月11日、枢機卿会議で生前退位を発表した。