今年はロシアが事実上の侵略戦争であるウクライナ軍事侵攻を開始し、国際秩序が大きく脅かされた試練の時代となる一年だった。中国の台湾統一に向けた軍事的威嚇も危険水域にあり、北朝鮮は今までになく頻繁に弾道ミサイル発射訓練を実施した。抑止力強化のため米欧諸国、日本など民主主義国の結束が一段と問われることになる。
独裁的統治の弊害も
露軍が侵攻して間もなく、国連安全保障理事会は2月26日に即時撤退などを求める決議案を採決に掛けたが、理事国15カ国のうち11カ国が賛成したものの常任理事国ロシアの拒否権発動で否決された。米国、欧州連合(EU)はじめ各国は強い非難と強力な制裁をロシアに科したが、ウクライナが求める直接的な軍事介入は否定した。
プーチン露大統領は、核兵器を保有する常任理事国であり、広い国土と豊富な資源を持つロシアを相手に北大西洋条約機構(NATO)加盟国など欧米は戦争できないとみて、核兵器使用を示唆して脅し、国内には「特別軍事作戦」とだましてウクライナを侵略した。
目論見(もくろみ)通りに進んだことは、安保理は機能せずNATO軍は踏み止(とど)まり、またロシア国内では「戦争はしていない」ことにされ、反戦デモはおびただしい逮捕者を伴いながら抑え込まれたことだ。
しかし、プーチン氏にとって計算違いだったことは、ウクライナ国民の決死的な結束とゼレンスキー大統領が逃亡どころか戦時指導者として命懸けの抗戦の先頭に立ち、米欧はじめ民主主義諸国が武器供与を含む巨額の支援を継続していることだ。また厳冬にあっても欧州の国々がロシア産エネルギーからの脱却を進めているように、かつてない強力な対露制裁が本気だったことであろう。
何がプーチン氏を見誤らせたかと言えば、20年以上に及ぶ独裁的統治を強め、恣意(しい)的な情報しか伝わらない側近政治の弊害が指摘されている。世襲制の独裁国である北朝鮮も似たような事情はあろう。過去にない頻度のミサイル発射は無気味だ。
中国では10月の共産党大会で習近平総書記が3選され、やはり長期独裁が懸念されている。著しい軍拡を伴いながら海洋進出し、軍事力を用いた台湾侵攻を辞さない野心を持つ中国は、8月に米下院議長が訪台すると台湾を包囲する大規模軍事演習を展開し、わが国の排他的経済水域にもミサイルが着弾した。
新型コロナウイルスへの対応も「ゼロコロナ」を頑迷に続けたところへ、抗議デモが広がると感染爆発を招く中で隔離措置の撤廃方針を打ち出すなど、極端な政策転換には疑問符が付く。だが、抗議する大衆の力を恐れたことは確かだ。
力には力による制御を
一方、独裁的な国々に誤った判断を抱かせたものは、民主主義国側にもある。昨年、米バイデン政権はタリバンの政権奪取を許すアフガニスタン撤退を行い、民主主義諸国は経済を価値の中心にして、21世紀に損な戦争は起きないと楽観的に期待する傾向があった。もはやこれは通用しない。力には力による制御がますます必要となろう。



