特定秘密保護法で定められた「特定秘密」を元上司の海上自衛隊OBに漏らしたとして、自衛隊の警察に当たる警務隊が海自の1等海佐を同法違反容疑などで書類送検した。
防衛省は1佐を懲戒免職としたが、国家の安全保障に関わる特定秘密の漏洩(ろうえい)は言語道断である。情報管理を徹底しなければならない。
海自OBに周辺情勢説明
1佐は情報業務群司令だった2020年3月、退職していた元自衛艦隊司令官の元海将に安全保障に関する説明を実施。その内容に特定秘密に指定される周辺情勢に関する情報や、自衛隊法で機密とされる部隊運用や訓練の情報が含まれていた。
元海将は20年1月、自身の講演活動などのため「退職後の情勢について正確な情報が知りたい」として、1佐と上司ら計3人に協力を依頼。1佐は「過去に上下関係があり、畏怖の念があった。上司からも実施の指示があり、関心を引く情報を出すべきだと考えた」と話しているという。
先輩に対する敬意は理解できるが、機密を漏洩していい理由にはならない。「部外者に話せる範囲で対応する」という指示を明確に伝えず、処分を受けた当時の上司らも軽率のそしりを免れない。
台湾統一に向け武力行使を放棄しないとする中国、ウクライナを侵略して核の脅しを繰り返すロシア、核・ミサイル開発を進める北朝鮮の存在など、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増すばかりだ。こうした中、今回のような重要情報の漏洩が生じれば、同盟国や友好国との信頼関係が損なわれ、日本の安全が脅かされる恐れもある。
海自は反撃能力(敵基地攻撃能力)の手段として米国製巡航ミサイル「トマホーク」を導入するが、この方針にも影響を与える恐れがある。同盟国などとの連携を強化するには、情報管理を徹底して信頼回復を急がなければならない。
特定秘密の漏洩発覚は、14年12月の特定秘密保護法施行後初めてとなる。同法は「防衛」「外交」「スパイ活動防止」「テロ防止」の4分野について、行政機関の長が特定秘密を指定すると規定。特定秘密を扱う公務員や民間の契約事業者が情報を漏洩した場合は最長10年の懲役が科され、漏洩を共謀したり、そそのかしたりした場合は5年以下の懲役となる。
制定のきっかけの一つとなったのは、海自で07年に発覚したイージス艦の情報流出事件だった。野党や一部メディアは国民の「知る権利」を侵害するとして反対したが、当時の安倍政権が「国民の生命、財産を守るには一刻も早く制定することが必要」として13年12月に成立させた。その後、知る権利が侵害された事例は生じていない。
スパイ防止法制定を急げ
ただ、特定秘密保護法だけでは情報保全を十分に行うことはできない。今回は漏洩先が海自OBだったが、外国のスパイや工作員であれば極めて深刻な事態となっていた。
日本にはスパイ行為を取り締まる法律が存在しない。日本の安全を守るためにも、スパイ防止法の制定を急ぐべきだ。



