【上昇気流】(2022年12月22日)

新渡戸稲造(Wikipediaより)

『武士道』の著書で知られる新渡戸稲造は、米国留学時代、ボルティモアに住み、「ミーティングハウス」の信徒になった。これはクエーカー教徒の教会で、日本の禅宗のような雰囲気があった。

建物は簡素で、礼拝堂に装飾はなく、椅子が中央に向かって並んでいるだけ。華美な服装をした人はいなかった。説教壇はなく、賛美歌も歌わない。信徒たちは端然と黙想し、座禅を組んでいるように見えた。

この宗派から1747年に分かれたのがシェーカーだった。聖霊に満たされると、体を揺すって祈ったことに名の由来がある。正式には再臨信仰者協会。独身主義と共同生活を特徴としていたが、1970年の大阪万博の頃には、教団はなくなっていたらしい。

日本では語られることの少ない教派だが、美術家たちの間ではそうではないようだ。この教派について知ったのは、美術史家、新見隆さんの新刊『時を超える美術』(光文社)による。

「荒野に禅のオアシスを、シェーカー」の章で、彼らの作った椅子や家具が、市場に出ると大変な高値になり、ミュージアム・ピースになると紹介している。シンプル極まる美しい椅子は、20世紀モダン家具のルーツになった。

高い精神性から生み出されたフォルムだ。大阪万博の際、アメリカ館で「月の石」と並んでこの家具が展示された。新見さんはそれを「アメリカ禅の枯山水」と形容する。米国に流れている精神的潮流の一つなのだ。