カナダのモントリオールで開かれた国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)は、希少な動植物の保全などを進めるための新たな国際目標で合意した。
自然環境や生態系の保全は人類の存続に不可欠だ。全世界が新目標達成に向け協力しなければならない。
30年までの新目標掲げる
新目標の名称は「昆明・モントリオール世界生物多様性枠組み」で、2010年開催のCOP10(名古屋市)で採択された「愛知目標」の後継となる。50年までの「自然と共生する世界」の実現を目指し、30年までに達成すべき23項目の個別目標を掲げた。
国際機関が19年に公表した報告書によると、約100万種の動植物が絶滅の危機にあり、適切な対策を講じなければ今後数十年でその多くが絶滅しかねない。生物多様性が損なわれると、人間の食べ物や薬などが得られなくなる恐れも出てくる。
多様性を損なっている要因としては、陸・海の開発や動植物の乱獲、地球温暖化の影響、外来種による侵略などが挙げられる。新目標では、陸・海のそれぞれ30%以上を健全な生態系として保全する「30by30」を掲げた。世界の保全地域は20年8月の時点で陸で約15%、海で7%強にとどまっている。
愛知目標には「陸域および内陸水域の17%を保全」など計20の個別目標が盛り込まれたが、完全に達成された項目はゼロだった。今度こそ目標を達成し、生物多様性の損失を食い止めなければならない。
この問題でも、資金支援などの分野で先進国と途上国との対立が目立つ。だが多様性が損なわれれば、双方にとって大きな打撃となる。地球全体の利益を考えるべきだ。
途上国への資金支援では、先進国などから少なくとも年間2000億㌦(約27兆円)を確保することで合意。また、世界銀行の下で運用されている基金に生物多様性保護に特化した基金を追加することで一致した。
一方、「デジタル化された遺伝情報(DSI)」の利益配分については今後検討し、24年にトルコで開催予定のCOP16で結論を出すこととなった。途上国は、形のある遺伝資源と同様にDSIによる利益の配分も求めている。遺伝資源は全人類にとっての財産であり、今後の議論で適切な配分の在り方が示されることを期待したい。
新目標には、事業による生物多様性への影響を開示するよう企業に求める項目もある。目標達成には、各国政府が尽力するだけでなく、企業や金融機関などの協力も必要だ。
日本古来の知恵で貢献を
日本国内では「30by30」の達成に向け、国立公園などの保護地域の拡大や企業との連携などが鍵となる。環境省は、企業が管理する土地のうち、生物多様性の保全に貢献している森林などを「自然共生サイト(仮称)」として、23年中に100カ所以上で認定する方針だ。
日本人は自然と共生し、自然を維持して資源を有効利用する伝統を持っている。古来の知恵を発信し、全世界の生態系保全などに貢献したい。



