【社説】少子化対策 結婚の意義をもっと訴えよ

有識者で構成する政府の「全世代型社会保障構築会議」が、社会保障改革に関する報告書を岸田文雄首相に提出した。

喫緊の課題である少子化対策を巡っては、子育て世帯への経済的支援や仕事との両立を後押しする仕組みの構築を提言し、子供関連予算の倍増を明記している。しかし、これだけで十分とは言えない。

出産育児一時金を増額

報告書は「少子化は国の存続に関わる問題」と指摘。子育て支援として、出産育児一時金の増額など経済的支援に加え、時短勤務を選ぶ会社員や育児休業給付の対象外となっている自営業者らへの給付制度の創設を主張した。現在中学生以下の子供1人当たり原則月1万~1万5000円を支給している児童手当の拡充に触れるとともに、恒久的な財源の検討も求めた。

確かに経済的支援は重要である。また、男性の育児休業の取得率が高まれば女性の負担を軽減する効果も期待できよう。だが、これだけで少子化を克服できるか疑問だ。

昨年の出生数は過去最少の81万人。1人の女性が生涯に産む子供の推計人数を示す合計特殊出生率は1・30で、6年連続の減少となった。一方、死亡数から出生数を引いた人口自然減は初めて60万人を超えるなど、少子高齢化と人口減少は深刻の度を増している。

少子化の主な原因は未婚化・晩婚化である。国立社会保障・人口問題研究所が9月に公表した出生動向基本調査によると、25~34歳の未婚者が「独身でいる理由」として、男女とも「適当な相手にまだめぐり会わないから」「独身の自由さや気楽さを失いたくないから」「結婚する必要性をまだ感じないから」などを挙げる人が多かった。

もちろん、結婚や出産をするかしないかは本人の自由だ。とはいえ、少子化が進めば国が衰退することは目に見えている。少子化を食い止めるには、政府が結婚、家族の意義や価値をもっと訴える必要がある。

この場合、結婚は当人同士だけでなく、生まれてくる子供の幸せのためにするものだということを強調すべきである。「子宝」という言葉があるが、子供は国や地域社会にとっての宝でもある。このような意識を高めていくことも少子化対策では重要だと言える。

全世代型社会保障の理念を踏まえ、出産育児一時金の増額に関しては一定以上の年収の後期高齢者に費用の一部を負担してもらう方針だが、その前に政府としてやるべきことは多い。1人当たり県民所得が全国最下位である沖縄県の出生率が全国1位であることは、少子化の要因が経済問題だけではないことを示している。

首都機能移転も必要

出生率が全国最低の東京への一極集中を是正し、子育てをしやすい地方への移住を促す環境を整備することも少子化対策には欠かせない。

新型コロナウイルス禍の中、テレワークの広がりなどを背景に地方移住を検討する人も増えている。ただ少子化の流れを反転させるには、首都機能移転などの思い切った施策も進める必要がある。