【社説】鳥インフル 感染リスク減らす対策徹底を

青森県三沢市内の養鶏場で家畜伝染病の高病原性鳥インフルエンザが発生し、県は卵を産ませる採卵鶏約137万羽の殺処分を行っている。殺処分の対象羽数は、単独の養鶏場としては過去最多となる。大規模な殺処分は鶏卵価格の高騰にも拍車を掛けかねない。

過去最多上回るペース

青森県の三村申吾知事は陸上自衛隊に災害派遣を要請。自衛隊員や県職員が殺処分に当たっている。137万羽は県全体の飼育数の約2割を占める。

今季は16日までに19道県で37例が発生して計625万羽が殺処分の対象となった。過去最多だった2シーズン前の計987万羽を上回るペースだ。養鶏農家だけでなく、国や自治体も危機感を持って感染拡大防止に全力を挙げなければならない。

鳥インフルは主に、ウイルスを運ぶ渡り鳥が国内に飛来する10月ごろから翌年春にかけて発生する。しかし今年は、これまでに例がない9月下旬に野鳥での感染を確認。農林水産省は都道府県に対し、農家に防疫対策の徹底を周知するよう呼び掛けていたが、家禽(かきん)でも初めて10月中に発生した。

感染が相次ぐ鹿児島県では今季、野鳥のツル1200羽以上の死亡が確認された。これは昨季の10倍以上に上る。「ウイルスを持った渡り鳥が例年よりも多く日本に飛来している」との見方を示す専門家もいる。

背景には世界的な大流行がある。米国は今年、過去最多となる5054万羽の感染を確認。欧州では、ウイルスを運んでくる渡り鳥がいなくなる夏場も感染が途切れなかった。

日本では、担い手不足などによって養鶏場の大規模化が進んだことも被害増加に影響している。養鶏場1戸当たりの採卵鶏の飼育数は2019年に約6万7000羽と、09年の約1・5倍に増えた。

卵は「物価の優等生」とされるが、ただでさえ餌代が高騰する中、鳥インフルの頻発が価格を押し上げている。卸売価格の目安となる基準値は15日時点で1㌔当たり280円(東京、Mサイズ)と9年ぶりの高水準。昨年12月の平均価格と比べても3割増しだ。

養鶏場では、ウイルスが付着した小動物や小鳥、人が入って感染が拡大するケースが多いため、ネットを張ることや建物の隙間をふさぐこと、手や指、長靴の消毒などの基本的な対策を徹底すべきだ。消毒剤は気温が下がると効果が薄れるため、水酸化カルシウムを混ぜる必要があるという。

野鳥の死骸を早めに回収することも、養鶏場での鳥インフル発生のリスク軽減につながる。渡り鳥が多いほど感染拡大の可能性が高まるため、渡り鳥を分散させる取り組みも早急に進めることが欠かせない。

 風評被害を生じさせるな

鳥インフル感染が広がる中、人への感染に対する不安が強まることも考えられる。

内閣府食品安全委員会は「日本の現状では鶏肉や卵などを食べることにより、鳥インフルに感染する可能性はないと考えている」としている。風評被害を生じさせることがあってはならない。