仏エネルギー危機 再エネ開発を加速 太陽光発電などを促進

「『グリーン水素』パイプライン設置 スペイン、ポルトガルと合意」

フランスの原発=2015年4月、中部サンローランヌアン(AFP時事))

フランスは再生可能エネルギーの生産を加速する法案を採択し、スペイン、ポルトガルとの間で「グリーン水素」のパイプライン設置でも合意した。ウクライナ侵攻でエネルギー危機が深まる中、国内でやれること、周辺国との連携が必要なものを同時進行させているが、再生可能エネルギー開発は待ったなしだ。(パリ・安倍雅信)

フランス国民議会は9日、再エネの生産を加速する法案の一連の規定を採択した。野党左派連合との間で議論は紛糾し、最終決定の過程にあるが、法案可決が急がれる点では認識を共有している。

法案の規定での注目点は、大規模屋外駐車場へのソーラーパネル設置の義務付けだ。1500平方㍍を超える屋外駐車場に太陽光発電シェード構造を設置することを義務付けるものだ。賛成42票、反対6票で採択された。

また、再エネ施設の土地不足解消のため、海沿いの荒れ地や元採掘場などに太陽光発電または水素生産施設を設置するための環境修正法案の新たな特例も採択された。今後、太陽光発電パネルの設置が、環境破壊や景観維持のために禁じられていた地区への設置が拡大することになる。ただ、農業や牧畜に適した土地をどう守るか課題は残っている。

さらに、再エネ設備の設置を民間住宅組織による集合住宅の新規建設に条件付ける環境修正案も採択した。政府与党は民間の経済活動を制限するとして支持しなかったが、結果的には採択に至った。

採択できなかった条項もある。例えば太陽光発電の特定のプロジェクトで、公開調査や審査などの許可が下りるまでに時間がかかる問題の回避だ。政府は簡単なオンラインの公開協議や相談で手続きを簡素化する案を提出していたが、野党全員が反対に回り、賛成33票、反対37票で否決された。

欧州全体にいえることだが、ロシアのウクライナ侵攻の長期化で化石燃料の調達が困難になる想定外の事態にさらされる中、温暖化対策から2050年までのカーボンニュートラル(脱炭素)に向かう過渡期にある。ウクライナ侵攻に加え、今夏の異常な熱波襲来は、再エネ開発の加速を後押ししている。

フランスは9日、スペイン、ポルトガルと、海底水素パイプラインを2030年までに建設し、稼働を目指すことで合意した。費用は約25億ユーロ(約3600億日本円)が見込まれ、年間約200万トンの水素を輸送が可能になる。

再生可能エネルギーとして期待される「グリーン水素」は、世界的注目を集めている。

フランスには56基の原子炉があり、本来、必要エネルギーの70%近くを原発に依存してきた。今は一部の原子炉で点検、調整が行われ、発電量は20%減となっている。マクロン政権は原子炉の増設を決めており、温暖化ガス排出量が少ない原発で再エネへの移行期を乗り切ることを決めている。

とはいえ、当面のエネルギー不足が本格化するのは来年以降とみられ、この冬をどう耐えるかも経済活動、国民生活に直結する問題だ。政府は今年は送電が完全に止まるブラックアウトはないとしているが、来年1月の発生は否定していない。そのため、自治体、企業、個人に広く節電を呼び掛けている。

政府は来年1月からの計画停電の可能性を示しており、治安維持や救急、交通や学校の運営などを考慮し、自治体で検討に入るとしている。すでに政府の要請に従って、企業も個人世帯も自発的に節電を実行しており、11月最終週の電力消費量は前年同期より8・3%減少した。

フランス国民は、再エネ開発の加速で景観を乱す太陽光発電パネルの大量設置や風力発電塔が乱立することを懸念している。そのため環境保護派は再エネ開発には敏感に反応する。再エネ移行の流れは加速しているが、課題も山積している。