
「冬木立静かな暗さありにけり」(高浜年尾)。あまりの恐怖や驚きに襲われると、一夜にして髪が白髪になってしまうことがあるらしい。実際に経験したことはない。そんなことを思ったのも、いつも通っている道での出来事から。
一夜にして、公園とその傍の道までおびただしい枯れ葉に覆い尽くされていた。急に落葉したのは急激な寒さからだろうか。それは公園の中ほどの樹木だったが、その枯れ葉が風のためか道まで散らばっている。
改めて落ち葉の掃除の大変さを感じた。同時に、かつては落ち葉を集めてたき火をし、サツマイモを焼いたことなどが思い浮かんだ。子供時代の記憶は美化されやすいが、これもそのたぐいかもしれない。小説の神様と言われた志賀直哉に「焚火」という印象的な短編がある。
赤城山の湖畔でたき火をして、その燃えさしを湖に投げる描写が不思議なほど心に染み入る文章だった。志賀には「城の崎にて」という傑作があるが、それよりもこの湖畔のたき火を描写した一編の方が記憶に残る。
一夜にして有名になるという話は芸能界などでは割合ある話だが、その嚆矢(こうし)となったのは、英国のロマン派の詩人バイロン。「ある朝目が覚めたら、有名になっていた」という言葉が知られている。
突然変わることは人間の社会には多い。特に、政治の世界は「一寸先は闇」と言っていい。今後、一夜にして岸田政権が変わる事態があるのか、気になるところだ。



