第15旅団が格上げ「防衛集団」へ 中国の覇権主義に対応

第15旅団創隊記念行事で整列した石垣警備隊(仮称)の隊員ら=11月6日、沖縄県那覇市の那覇駐屯地

防衛省は台湾有事を念頭に、沖縄県の防衛、警備を担当する陸上自衛隊第15旅団(那覇市)の機能を強化する。拡充した部隊には、住民避難など国民保護に関する地元自治体との調整を担わせる方向で検討。また、弾道ミサイル防衛(BMD)システムを増強する計画も進められている。(沖縄支局・豊田剛、写真も)

米海兵隊と対等に

南西諸島ミサイル防衛も強化

防衛省筋が明らかにしたところによると、実質的には沖縄の陸自部隊は旅団より上位の師団に当たる組織に変わる見通し。新たな名称や規模は調整中だが、師団に準ずる「南西防衛集団」が有力とされている。防衛省は南西諸島の有事対応の中核部隊にしたい狙いがある。月内に閣議決定される防衛力整備計画(現・中期防衛力整備計画)に創設方針を盛り込む方向という。

記念行事の訓練展示ではPAC3も登場した=11月6日、沖縄県那覇市の那覇駐屯地

陸自の作戦部隊には九つの師団と、これに準じる六つの旅団があるが、新編する「集団」は両者の中間の規模に位置付けられる。

「南西諸島地域の防衛体制強化は喫緊の課題であり、安全保障環境に即した部隊配置を推進する。地元に丁寧な説明を行い、国民保護にも万全を期する」

岸田文雄首相は11月29日の衆院予算委員会でこう述べた。覇権主義的な動きを強める中国が台湾の武力統一に出る可能性が指摘される中、台湾と同じ第一列島線上にある南西諸島の防衛力増強のため、格上げが必要と判断された。

那覇駐屯地入り口には緊急患者空輸の実績が掲示されている

具体的な変更としては、地上戦闘の骨幹部隊で歩兵部隊に当たる普通科連隊を現在の1個から2個に増強する。さらに、物資補給などを担当する後方支援や通信など他の部隊の増強も検討。有事への対処や国民保護対応の強化を図る。2023年度から適用される新たな防衛力整備計画に盛り込み、24年度にも準備を始める。

司令は現在の陸将補から陸将(中将に相当)に格上げとなる方針。米海兵隊はここ数年、台湾有事を念頭に、地対艦ミサイルなどを装備した小規模部隊を分散展開して中国軍に対抗する遠征前進基地作戦(EABO)を強化している。その際、日米間のより密接な連携を図るため、沖縄の陸自司令の階級を海兵隊と同格とすべきとの意見が防衛省内にあった。

また、防衛集団の司令官には地元自治体と調整する権限を新たに付与し、第15旅団の上部組織である西部方面隊(熊本市健軍駐屯地)が持つ行政機能を一部移す。

第15旅団は2010年3月に発足、司令部がある那覇駐屯地には約2000人の隊員が働く。05年の中期防衛力整備計画に基づき、第1混成団の後継として編成された。南西諸島の地理的特性を踏まえつつ、ゲリラや特殊部隊による攻撃やNBC攻撃、島嶼部に対する侵略、大規模特殊災害等の新たな脅威などさまざまな事態に迅速で実効的に対応できる体制を構築するために編成された離島型旅団だ。

編成以来、島嶼部への部隊配備が進められ、16年には与那国島に沿岸監視隊が配備された。県内で沖縄本島以外に駐屯地ができるのは初めてだった。19年には宮古島駐屯地が開庁しミサイル部隊が配備された。来年3月には石垣島駐屯地が開庁し、ミサイル部隊と警備部隊が配備される。防衛省は、与那国駐屯地には電子戦部隊を配備する計画を示している。

15旅団の格上げに加え、南西諸島地域を中心にミサイル防衛を強化する動きもある。政府は31年度末までに、日本を狙う弾道ミサイルを迎撃する「弾道ミサイル防衛(BMD)システム」を増強する計画がこのほど判明した。地上の迎撃網を強化するため、新たに陸上自衛隊の14の地対空部隊にミサイル迎撃能力を付与する。特に中国に備える南西諸島を重視し、沖縄県の6部隊(南城市知念、うるま市勝連、沖縄市白川、宮古、石垣、与那国)、鹿児島県奄美大島の1部隊に配備する。既存の沖縄本島にある航空自衛隊の4部隊と合わせると、約3倍の規模になる。

玉城知事は、自衛隊配備について常に「過重な負担」「地元の理解が先」と口にする。来年3月に開設される石垣駐屯地についても「住民の合意なしでは認められない」との立場だ。

11月に全国的に実施された日米合同訓練「キーン・ソード2022」で、自衛隊車両が与那国島の公道を走るなど自衛隊が民間施設を使用したことについて「県民にさまざまな不安を生じさせた」と指摘。さらに、政府の有識者会議が南西諸島の港湾や空港について「自衛隊の空港や港湾使用に抵抗感がある自治体もある。民間利用に支障があってはならない」と強調した。

沖縄県は77年前、地上戦を経験し、多くの県民の命を失っていることから、地元メディアや学者らを中心に自衛隊の増強に抵抗感がある。自民党県連のある幹部は、「中国が覇権主義にあって沖縄は東アジア地域の安全保障の要。時代に合わせた防衛議論をする必要がある」と反対論者に理解を求めた。