
中国で、習近平政権の「ゼロコロナ」政策に対する抗議デモや暴動が起きている。中にはこれまで考えられない体制批判まで出ており、沸騰した湯が蒸気を噴き出しているかのような不満の噴出ぶりだ。
堪忍袋の緒が切れた全土的抗議の声に中南海は耳を傾け、硬直した新型コロナウイルス政策を改めるべきだ。
「共産党不要」の声も
抗議デモに火が付いた理由の一つは、新疆ウイグル自治区での高層住宅の火災で10人が亡くなったことだった。ゼロコロナ政策によるロックダウンで、非常口が施錠・封鎖され消火活動が著しく制限された。これが国民の怒りを買った。
さらに中国国民は、報道されるサッカー・ワールドカップで「異形の国・中国」の実態をまざまざと見せつけられもした。カタール大会では、マスク姿の観客はほとんど見当たらず、観客席からサポーターによる大合唱が響き渡りもした。
カタールでは、マスクの着用義務は医療施設内のみとし、公共交通機関での着用は任意とした。さらに渡航者はPCR検査の陰性証明も不要で、サッカー会場では入場制限さえない。
一方の中国では、上海市党委書記の李強氏が10月の共産党大会で最高意思決定機関である7人の政治局常務委員のナンバー2の座に就き、来春には次期首相に就任する見込みだ。李氏は習近平国家主席のゼロコロナ指示を忠実に守った人物として名高い。
感染力は高いが、重症にはなりにくい新型コロナに柔軟に対応して有効な手立てを打ち出すより、トップの指示をイエスマンとして遂行した人物への「ご褒美」として抜擢されたと誰もが確信した人事だった。
今回の抗議デモでは白紙を掲げて「言論の不自由」を訴えているほか「習氏の辞任」を求め「共産党不要」を主張する声まで出ている。共産党独裁政権下では異例の事態だ。33年前の天安門民主化運動でさえ、学生や民衆はこうしたことを口にはしなかった。それだけ国民の鬱憤(うっぷん)がたまっていたのだろう。
これに対し習政権は「敵対勢力の取り締まり」を指示した。政権内では外国勢力関与の陰謀論も出ている。香港の民主化運動も、外国勢力と結託したとして強権を使って潰(つぶ)した経緯を考慮すると危険な兆候だ。
抗議活動が中国全土で広がる中、各地で新型コロナ対策を一部緩和する動きも出ている。しかし習氏はゼロコロナ堅持を強調しているため、このような措置は一時しのぎとみていい。当局は週末に向け、江沢民元国家主席の死去を受けた追悼の動きと共に抗議活動への警戒を強めている。
面子捨て柔軟な対応を
中国のゼロコロナ政策が当初、大きな効果を上げたのは事実だ。だが、中国政府はそれを「政治体制の勝利」だとして、強権国家の正当性をアピールし、ナショナリズム高揚へ政治利用した経緯がある。
面子を考えれば今さら引くに引けない袋小路の習政権だが、国民の不満が強まる中、現在は緊急事態への柔軟な対応力こそが求められている。



