
中国軍による台湾侵攻が現実味を帯びる中、台湾までわずか約110㌔の位置にある日本最西端の沖縄県・与那国島の重要性が増している。
沿岸監視に当たる陸上自衛隊与那国駐屯地を最大限に活用し、有事に備えるべきだ。
約200人が警戒監視
南西諸島は端から端まで約1200㌔と本州に匹敵する範囲に点在するが、沖縄本島を除き、2016年まで陸自の拠点がなかった。16年に発足した与那国駐屯地では、陸自と航空自衛隊の約200人が警戒監視に当たっている。
23年度には電磁波で敵の通信、レーダーを妨害する電子戦部隊も配備される予定だ。浜田靖一防衛相は9月、与那国駐屯地を視察して「一人ひとりの働きが南西地域の防衛、わが国の安全保障に直結する」と隊員を激励した。
8月にはペロシ米下院議長の台湾訪問に反発し、中国が台湾周辺海域に11発の弾道ミサイルを発射した。このうち5発が日本の排他的経済水域(EEZ)に落下。与那国島から約80㌔の地点に落下したものもあった。
10月の中国共産党大会では、習近平総書記(国家主席)が台湾統一に向けて「武力行使を決して放棄しない」と表明した。米国では、早ければ年内にも台湾有事があり得るとの見方も出ている。日本も警戒を強める必要がある。
11月には、陸自の16式機動戦闘車(MCV)1両が、空自のC2輸送機で空輸され、空港から与那国駐屯地までの公道を約6㌔を走行した。日米統合演習「キーン・ソード」の一環で、砲塔の付いた車両が県内の公道を走行するのは戦後初めてのことだった。
MCVは離島防衛を念頭に設計され、時速100㌔でタイヤ走行できる機動性や空輸可能な点が特長。105㍉砲を搭載し、軽戦車を撃破できる火力を備えている。戦闘車の走行は、台湾有事に対する政府の危機感の表れだと言える。
こうした情勢の下、防衛省は年末までの国家安全保障戦略など3文書改定で、南西諸島への自衛隊の重点配備を改めて打ち出す見通しだ。与那国島は中国艦艇などの重要な情報を取ることができる場所でもあり、台湾有事に備える上で十分に活用することが求められる。
中国の動きに対応し、防衛省はこれまで奄美大島(鹿児島県)、宮古島(沖縄県)にミサイル部隊を配備してきた。今年度中に石垣島(同県)にも追加する。島民には、有事の際に軍事拠点が狙われることへの不安も根強い。政府は部隊の配置が攻撃を抑止する効果を高めることを丁寧に説明し、島民の理解を得なければならない。
一層の同盟強化を期待
現在行われている日米共同方面隊指揮所演習では、自衛隊と米軍が与那国駐屯地を共同使用する。それぞれ約40人が参加し、キーン・ソードでの課題克服などを図るという。与那国駐屯地を使う米兵は、陸自ヘリコプターで駐屯地に入る。
中国への牽制(けんせい)を念頭に置いた与那国駐屯地での共同演習が、日米同盟の一層の強化につながることが期待される。



