【社説】コロナ飲み薬 対策と経済活動両立へ活用を

塩野義製薬が開発し、緊急承認された新型コロナウイルス感染症の飲み薬「ゾコーバ」(同社提供)

塩野義製薬が開発した新型コロナウイルス感染症の飲み薬「ゾコーバ」が緊急承認された。国産のコロナ飲み薬の実用化は初めてとなる。

新型コロナの感染「第8波」入りが指摘される中、感染対策と経済活動の両立に向けて活用したい。

重症リスク低くても処方

緊急承認は感染症の流行など緊急時に限り、有効性が推定できれば期限付きで速やかに医薬品などを薬事承認できる制度。5月に導入され、今回初めて適用された。

7月の審議では「提出されたデータからは有効性が推定されるとは判断できない」とされ、塩野義製薬は9月、最終段階の臨床試験(治験)の速報結果を公表。オミクロン株に特徴的な発熱や喉の痛みなど五つの症状が改善されるまでの時間が、約24時間短縮できたとした。審査を担当した医薬品医療機器総合機構(PMDA)は「有効性を有すると推定するに足る」とし、安全性も確認されたとして緊急承認が了承された。

米製薬大手メルクや米ファイザーが開発し承認された飲み薬は、高齢者や基礎疾患があるなど重症化しやすい人を主な対象としている。軽症者への治療では点滴や注射で投与する抗体薬もあるが、いずれもオミクロン株への効果は低く、投与は他の薬が使用できない場合に限定されている。

ゾコーバは既に医療機関への供給も始まっており、今後は病院の診断を受ければ重症化リスクと関係なく処方を受けられる。塩野義製薬は、来年度には1000万人分を生産する体制を整えるとしている。

ただ、感染者が急増すれば患者が医療機関に殺到することも考えられる。これまで政府は、重症化リスクの低い患者は自己検査や自宅療養を行うよう求めてきた。混乱を防ぐには、オンライン診療での処方でゾコーバを患者の自宅に迅速に届ける仕組みの強化が欠かせない。

ゾコーバは併用できない薬も多く、現在のところ重症化リスクを軽減させる効果も示されていないため、過度な期待は禁物である。ワクチンや他の飲み薬と共に、第8波の収束に向けていかに有効な使い方をするかが問われる。

緊急承認が創設された背景には、コロナワクチンの実用化が欧米より遅れたことがある。コロナワクチンは、海外で流通する医薬品を迅速に審査する「特例承認」で薬事承認されたが、国内での追加治験により手続きに時間を要した。緊急承認であれば、ファイザー製のワクチンは約2カ月実用化を早められた可能性があるという。

 有事対応の体制整えよ

こうしたことを教訓に、政府は3月、日本医療研究開発機構(AMED)内に、国産ワクチン開発の司令塔機能を担う「先進的研究開発戦略センター(SCARDA)」を設立した。

外国製の医薬品は、国際情勢が不安定になれば確保が難しくなる恐れもある。SCARDA設立を緊急承認の制度と共に医薬品の国内開発強化につなげ、感染症のパンデミック(世界的大流行)などの有事に対応する体制を整える必要がある。