【社説】反撃能力保有 ミサイル増強で抑止力強化を

政府の有識者会議が敵のミサイル発射基地などを無力化する「反撃能力」の保有を不可欠とするなどの報告書を岸田文雄首相に提出した。ロシアのウクライナ侵攻、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)はじめ相次ぐミサイル発射、中国の台湾への武力威嚇など緊迫する軍事情勢を受けて喫緊の課題として具体化に取り組むべきだ。

5年以内に十分な装備

国連安保理常任理事国であるロシアがウクライナに軍事侵攻し、第2次世界大戦以来の事実上の欧州戦争勃発は、国際社会に大きな衝撃を与えた。

あり得ないだろうと思われた戦争が起きた教訓は大きい。わが国は、このようなロシア、北朝鮮、中国など軍事力にものを言わせる周辺国に囲まれ、反撃能力がなければ外国軍に領土を蹂躙(じゅうりん)され、不当な支配を排除できない恐れがある。

政府の「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の報告書は、「国産のスタンド・オフ・ミサイルの改良等や外国製のミサイルの購入により、今後5年を念頭にできる限り早期に十分な数のミサイルを装備すべきである」と強調しており、前進させるべきだ。

敵ミサイルの射程圏外から敵基地を攻撃できるスタンド・オフ・ミサイルの導入に当たっては、射程が約1600㌔ある米軍の巡航ミサイル「トマホーク」の配備が考えられるほか、陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾の射程を現在の約200㌔から2000㌔に延伸するなど国産スタンド・オフ・ミサイルの開発が想定されている。

同ミサイルは潜水艦、護衛艦、航空機などに配備される方向だが、今後5年と目標期限を定める以上、速やかに開発を進める必要がある。

これまで反撃能力保有の議論の前にはミサイル防衛計画が進められ、政府は陸上配備の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を配備しようとしたが、候補地の秋田県や山口県では適地選定が難航した。揚げ句は当時の河野太郎防衛相の独断で計画は中止された。このようないいかげんな計画倒れを繰り返してはならない。

加えて重要なのは、増額する防衛費の財源をどうするかだ。首相は北大西洋条約機構(NATO)加盟国並みに国内総生産(GDP)比2%を念頭にするとした。現在GDP比1・09%で約5兆4000億円の予算を倍にするには5兆円以上要る。

報告書では、歳出改革による捻出をまず優先し、「国を守るのは国民全体の課題」として「幅広い税目による負担が必要」と訴えた。法人税、所得税、消費税の税率を変えるか、新たな目的税とするか議論はさまざまあろう。だが、国債発行に否定的な決め付けがなされているのは、物価高騰の状況下の議論として妥当と言い難い。

国債発行も許容範囲

税率変更にしろ新たな目的税導入にしろ増税は、新型コロナウイルス禍の中で息を吹き返そうとしている景気を冷え込ませかねない。また、今後5年という期限に間に合わせるには国会論議で困難が伴う。早期配備には当面はやむを得ざる国債発行も許容範囲ではないのか。