【上昇気流】(2022年11月25日)

十三代目市川團十郎白猿さんの襲名披露興行が始まり、来場者らでにぎわう歌舞伎座前=7日午前、東京都中央区

市川海老蔵改め十三代目市川團十郎さんの襲名披露公演を東京・歌舞伎座で観(み)た。息子の八代目市川新之助さんの初舞台も兼ね、お祝いムードがあふれていた。

歌舞伎十八番の「勧進帳」で團十郎さんは弁慶を見事に演じたが、なかなか茶目っ気もあった。襲名公演を待ちに待っていた観客との阿吽(あうん)の呼吸のようなものがあり、それを楽しんでいる風もあった。

そんな舞台を観て改めて思うのは、歌舞伎というのは役者が中心だということ。狂言作者も演じる役者をまず想定して芝居を書き、演出は役者が自分で工夫してきた。

だから、役者の名跡を継ぐということも重い意味を持つ。名跡を継ぐのは落語やそのほかの伝統芸能でも行われるが、その重みという点では歌舞伎が第一だろう。

團十郎さんについていえば、やはり江戸歌舞伎を代表する大名跡の重みと責任があり、荒事を得意とする芸風もある。その名跡は時代を超えて継承されるべき人格に近いものと言っていいかもしれない。伝統芸が親から子へ、師匠から弟子へと代々受け継がれてきた背景で、名跡が果たしてきた役割は大きい。

一方、親と子は同じ人格ではない。それぞれの個性を生かすことで、その唯一無二性と発展が確保される。伝統と自分らしさの間で葛藤も起きるだろう。しかし、その中で新しいものが生まれてくる。新之助さんがどんな海老蔵、そして團十郎になるのかを想像するのも歌舞伎ならではの楽しみである。