
寺田稔総務相は「政治とカネ」に関する疑惑が相次ぎ、辞任した。事実上の更迭である。
岸田文雄首相は「任命責任を重く受け止めている」と陳謝したが、山際大志郎経済再生担当相、葉梨康弘法相に続き、わずか1カ月の間に3閣僚が交代する異常事態だ。岸田首相の優柔不断さが政権運営にマイナスに働いており、官邸の危機管理も機能しているのか大きな疑問符が付いている。
疎かにした身体検査
寺田氏の「政治とカネ」を巡る疑惑は総務相就任直後から指摘されてきた。寺田氏の政治団体が事務所賃料をビルの一部を所有する寺田氏の妻に支払っていた問題や、死亡していた政治団体の会計責任者の名義で収支報告書を提出していたこと、昨年10月の衆院選で運動員を買収した公選法違反疑惑などで、政治資金規正法を所管する閣僚だっただけに責任は重大である。
ところが、岸田首相は「説明責任を果たしてほしい」と求める程度。寺田氏も説明と謝罪に追われながら「職責を果たす中で岸田内閣を支えていきたい」と開き直り続けた。しかし、新たな疑惑がさらに発覚し、政治資金規正法違反の問題まで報じられるようになり、野党は辞任要求を強めた。
首相にとって寺田氏は、岸田派所属議員で同じ広島選出であり、派閥「宏池会」の設立者である池田勇人元首相の義孫でもあるため、これまでも核軍縮担当の首相補佐官に起用するなど重用してきた。とはいえ、政権の足を引っ張ってきた寺田氏を更迭できない理由にはならない。
本来であれば、首相は東南アジア歴訪前に交代人事を発令すべきだった。山際、葉梨両氏の時も決断が遅れ、マスコミ報道に左右された。この決断力のなさが政権運営に影響を与え政策論議の遅れを招いている。国会では野党による議員の資質や責任を問う質問で時間が大幅に割かれ、政策議論が十分にできないのはおかしい。
懸念されるのは、官邸の危機管理のお粗末さだ。新閣僚起用の際、身体検査と呼ばれる議員の過去に関するチェックをするのが常だが、今回は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関連があるか否かに集中し、その他の調査を疎かにした。そのため、「政治とカネ」の問題で疑惑のある閣僚が他にもいることがすでに指摘されており、野党は次の照準を秋葉賢也復興相による親族への資金還流疑惑に当てている。
そうなると、国会はますます政策論議に時間を割くことから遠のく可能性がある。それにもかかわらず、官邸は先手を打たず、出口戦略を描かずにその場しのぎの対症療法にとどまっているのは問題ではないか。
国民目線で論戦挑め
寺田氏の更迭で国会の日程はさらに窮屈になった。令和4年度第2次補正予算案の審議、防衛力の抜本強化の進め方、台湾有事への対応、インフルエンザと新型コロナウイルスの同時感染対策などの議論は早急かつ十分にしなければならない。
政府・与党は緊張感を持って対応しなければならないし、野党も党利党略でなく国民目線で論戦に挑むべきである。



