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中国を旅行した時、毎日のように茶を飲んでいた。陶器のカップに茶葉を一つまみ入れて熱湯を注ぎ、ふたをしてしばらく待つ。浮いた茶葉が沈んでから茶をすする。どこでもこの飲み方で、湯がなくなれば足して飲む。
『茶の本』で岡倉天心が「後世の中国人にとって、茶は美味な飲料ではあるが、理想ではない」といった茶だ。飲み終わった茶葉はほぐれて葉の形を示している。
日本の煎茶と違って、摘んだ葉を制作する工程で葉をもみながら乾燥させるということをしないからだ。煎茶は緑色をしていて爽やかでほんのり甘い。中国茶はこれほど洗練された感じはせず、もっと素朴な風味だ。
高宇政光著『日本茶の世界』(講談社)によると、煎茶は江戸時代に宇治で開発され、幕末明治には輸出品となったが、それ以前は、少数の数寄者の愛玩物で、煎茶趣味とは文人墨客の優雅な社交だったそうだ。
ペリーの黒船来航の時にうたわれたざれ歌がある。「泰平の眠りを覚ます上喜撰(蒸気船)たった四杯で夜も眠れず」。上喜撰は今の価格に直すと100㌘3000円程のお茶ということになり、毎日飲むには高い。
煎茶は幕末明治以降はもっぱら輸出用。全国で作られた。ところが20世紀に海外市場が激減し、戦後、未開の市場として発見されたのが日本だったという。それまで庶民に飲用されていたのは番茶。お茶屋さんに行っても今は煎茶ばかりだ。
(岳)



