
ウクライナを侵略したロシアのプーチン政権が、軍を南部ヘルソン州の一部から撤退する決定をした。
ウクライナは先に北東部ハルキウ州を奪還した後、南部へ反転攻勢し、露軍から解放する地域を拡大している。プーチン大統領は「特別軍事作戦」の失敗を悟り、無謀な侵略に終止符を打つ決断をすべきだ。
反転攻勢になす術なし
ロシアのメディアは、スロビキン露軍総司令官の報告を受けてショイグ国防相がヘルソン州の州都ヘルソン市を含むドニプロ川西側からの露軍撤退を命じたことを伝えた。補給もおぼつかないため撤退の動きは10月に既に開始されており、9月のハルキウ州奪還後のウクライナ軍の反転攻勢の前になす術(すべ)がなかったことを物語っている。
プーチン政権は9月末にウクライナ東部のドネツク、ルガンスク、および南部のヘルソン、ザポロジエの4州をロシア兵が住民に強制した「住民投票」により一方的に「併合」を宣言した。同時にロシア国籍のパスポート発行など同化政策を進め、戒厳令を発令して通信や外出を規制して抵抗運動を抑圧し、民兵組織を創設するなどしてウクライナ軍の領土奪還を防ごうとしていた。
しかし、ロシアが2月の侵略開始後に占領した唯一の州都であるヘルソン市を放棄せざるを得なかったことは、「併合」がでっち上げにすぎないため、もろい統治支配であることを内外に示した。
国際法に反することは明白だが、ロシアの立場に立てば「併合」で自国の領土と宣言したものの、わずか1カ月余りで失う撤退を国内メディアを通じて知らせることになった。プーチン氏に大きな打撃となることは否めない。
もともとロシア国内では侵略当初、モスクワやサンクトペテルブルクなどの都市で多くの市民がウクライナを攻めることに怒り、戦争に反対するデモが続発した。これを弾圧し、「戦争」の情報を拡散することを禁止する言論封殺を法的に可能にする強権支配でプーチン政権は乗り切ろうとしてきた。
だが、短期戦でウクライナは屈服すると見立てた連邦保安局(FSB)の面目は潰(つぶ)れ、演習だと騙(だま)されて戦闘に参加したロシア兵の士気は低く、戦いは長期化している。すでにロシア軍は弾薬や装備が不足している上、ロシア人男性は同じ民族で友邦のウクライナ国民を戦闘で殺すことを忌諱(きたん)して何十万人も国外に逃れた。プーチン氏が発した部分的動員令が国外逃避を加速させている。
残りの地域からも撤退を
軍はもともとウクライナ侵攻に慎重であり、全ロシア将校協会は1月、プーチン氏の大統領辞任と侵攻中止を求める声明を発していた。
撤退発表は、侵攻に慎重だった軍の不満がここに至って一定の政治力を持ったとも言えるだろう。対露制裁をかつてなく増幅させながら戦争を継続すれば、ロシアは国家的破綻に進む。かつてのソ連軍のアフガニスタン撤退のように、残るウクライナ領からも露軍を撤退させるべきである。



