米国防戦略 核の拡大抑止を強化

対中国が最優先課題

バイデン米大統領=25 日、ホワイトハウス (EPA時事)
バイデン米大統領=25 日、ホワイトハウス (EPA時事)

【ワシントン山崎洋介】バイデン米政権は27日、今後5~10年の安全保障政策の指針となる「国家防衛戦略」など三つの戦略文書を公表した。覇権主義を強める中国について「米国の安全保障に対する最も包括的で深刻な挑戦」と強調し、ロシアによるウクライナ侵攻後も最優先課題と位置付けた。また中国や北朝鮮などによる核の脅威に対抗するため、米国による同盟国への拡大抑止(核の傘)を強化する方針を示した。

同時に発表されたのは核政策の指針となる「核態勢の見直し」と、ミサイル防衛指針の「ミサイル防衛見直し」。バイデン政権で初となる国防戦略では、「中国政府は、米国の軍事的優位性を相殺することに重点を置き、中国人民解放軍のほぼすべての分野を拡大し、近代化させてきた」と指摘。通常戦力の拡充に加え、宇宙戦力、対空戦力、サイバー戦力を急速に進歩させているとして強い警戒感を示した。

ロシアについては「急性の脅威」とし、「近隣諸国の独立を軽んじ、武力で国境を変更し、帝国的な勢力圏を復活させようとしている」と指摘。ウクライナ侵攻について「北大西洋条約機構(NATO)を分断することを意図した指導者の政治的・軍事的行動は劇的に裏目に出たが、その目的は変わっていない」と訴えた。

国防の優先順位について、「インド太平洋地域での中国による挑戦、その次に欧州でのロシアによる挑戦を優先する」と明記。核開発を進める北朝鮮やイランについては、「持続的な脅威」との認識を示した。

また、軍事だけでなく、経済や科学技術などの総力を結集する「統合抑止力」という新たな概念を打ち出した。中国による侵略を抑止するため、同盟国との多国間演習や技術の共同開発、情報共有などを強化するとした。

オースティン国防長官は27日の記者会見で、「中国は国際秩序を再構築する意図を持ち、その力を増強させている唯一の競争相手だ」と説明。ロシアについては「中国と違い長期にわたって米国に対抗することはできないが、われわれの利益と価値観に差し迫った脅威をもたらしている」と強調した。

核態勢見直しでは、インド太平洋地域で「中国、北朝鮮、ロシアにおける核・ミサイル開発への懸念が高まっていることを認識し、地域の安全保障環境の変化に対応する形で抑止力を強化する」と表明した。

一方、核兵器搭載可能な海上発射巡航ミサイル「SLCM-N」の開発計画を中止するとした。地域紛争における限定的な核使用の抑止のため、トランプ前政権下で開発が決定したが、今回の見直しでは、他の兵器で代替できると結論付けた。