
バイデン米政権が核政策の指針となる「核態勢の見直し」(NPR)を公表した。
核抑止は「国家にとって最優先事項」とし、同盟国に「核の傘」など「拡大抑止」を提供することを明記した。こうした米国の姿勢を評価したい。
「先制不使用」宣言せず
NPRは核兵器の基本的な役割を「米国や同盟国などへの核攻撃を抑止すること」と明記。その上で、米国や同盟国、パートナー国の「死活的な利益を守る極限の状況に置かれた場合にのみ核兵器の使用を検討する」と記載した。ウクライナを侵略し、核使用をちらつかせるロシアを牽制(けんせい)する狙いもあろう。
バイデン大統領は、敵が核兵器を使わない限り核兵器を使用しない「先制不使用」や、核攻撃の抑止と報復が核兵器の「唯一の目的」とすることも検討した。しかし「米国と同盟国に受け入れ難いリスクをもたらす」として断念したことを明らかにした。
先制不使用を宣言した場合、核兵器以外の大量破壊兵器である生物兵器や化学兵器などで攻撃された時も核兵器を使うことができず、通常戦力による攻撃を受けるリスクも高まるなど抑止効果の点で問題が生じる。宣言の断念は当然のことだが、先制不使用を検討すること自体に認識の甘さがあると言わざるを得ない。
拡大抑止に関しては、日本や韓国、オーストラリアとの協議を強化することも盛り込んだ。日本周辺では、核・ミサイル開発を進める北朝鮮や核戦力を増強する中国の脅威が増大している。松野博一官房長官はNPRについて「抑止力の実効性確保と、力強く信頼性のある拡大抑止へのコミットメントを改めて明確にしており、強く支持する」と述べた。
一方、中国外務省の汪文斌副報道局長は「中国の正常な核戦力の現代化に対しあれこれ批評し、でたらめな推測を行っている」と批判した。だが、覇権主義的な動きを強める中国の核戦力増強を「正常」と見なすことはできない。米国や同盟国の核抑止力向上が求められる。
今回はNPRと共に、今後5~10年の安全保障政策の指針となる「国家防衛戦略」(NDS)とミサイル防衛指針の「ミサイル防衛見直し」が公表された。NDSでは、中国を「最も包括的で深刻な課題」と名指しし、米国の抑止力維持・強化を急ぐ方針を示した。
またインド太平洋地域での対中抑止を最優先事項とし、次に欧州でロシアの抑止に取り組むとした。ウクライナ侵略開始から8カ月が過ぎ、米国などの武器支援を受けるウクライナが反転攻勢に出る中、ロシアは苦戦に陥っている。
中国への牽制強化せよ
一方、中国共産党大会では習近平国家主席が台湾統一に向けて「武力行使を決して放棄しない」と宣言し、台湾侵攻が現実味を帯びている。
米国が中国への警戒を強めるのは当然だ。NDSでは、多国間演習などを通じて同盟国などとの連携を強化し、中国に対する抑止力を高める姿勢を打ち出した。中国への牽制を強化すべきだ。



