
英国のトラス前首相の後任としてインド系のスナク元財務相が、チャールズ国王の任命を受け新首相に就任した。トラス政権の失策で混乱する経済の安定が急務だ。それとともに与党保守党が進めてきた対中国、対ロシア外交の継続が問われる。
アジア系で初のスナク氏
物価高、景気後退への対処策として大規模減税を発表し、債券安、通貨安、株安のトリプル安で混乱を招いた責任を取る形でトラス氏が辞任したのを受けての就任。就任演説では「経済の安定と信頼を、この政府の中心課題とする」と強調した。
ジョンソン政権で財務相を務めたスナク新首相は、前回の党首選でトラス氏の大規模減税策を批判しており、経済財政手腕に期待するところが大きい。ただ、ロシアのウクライナ侵攻が引き金となった物価高を抑え、かつ景気後退させないのは容易ではない。いずれにしても経済の安定すなわち政権の安定であることは間違いない。
スナク氏は、インド系の両親のもと英国で生まれ育ちヒンズー教の信仰を持つ。英国史上、初のアジア系の首相となる。オックスフォード大学で哲学、政治学、経済学を学び、米スタンフォード大学で経営学修士(MBA)を取得するエリートコースを歩んできた。政界に入る前は証券大手ゴールドマン・サックスでアナリストとして勤務した経歴を持つ。
かつて英国の植民地であったインドにルーツを持つスナク氏が、旧宗主国の首相に就任することは、英国政界で人種的な多様性が大きく進んでいることを示すものだ。これまで多様性やマイノリティーの地位向上に力を入れてきた野党労働党はお株を奪われる形となった。
一方、英国の伝統的価値観とのズレが生じないか注視していかなければならないだろう。英国がロシアのウクライナ侵攻に対し、欧州諸国の中で最も厳しい姿勢を示してきた理由の一つに、自由と民主主義の旗手としての自覚と誇りがある。それは英国人の愛国心やナショナリズムとも結び付いているからだ。
スナク氏の外交・安保政策は未知数の部分が大きい。ジョンソン元首相そしてトラス氏は中露に厳しいスタンスを取ってきた。ウクライナ侵攻に対しても首相のジョンソン氏と外相のトラス氏のコンビが、その牽引(けんいん)役を果たしてきた。
トラス政権となってからは昨年3月に発表された外交・安全保障政策の指針を改定し、初めて中国を安全保障上の「脅威」として明記する方針が報じられた。また国防費の引き上げを目玉政策の一つにしていた。
スナク氏については中国に融和的ではないかとの見方もあったが、前回党首選では英国にある「孔子学院」の30拠点を閉鎖することを表明している。経済重視の新首相だが、これまでの保守党の外交・安保政策をしっかり継承し推し進めてほしい。
日英の一層の連携深化を
昨年には英海軍の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」が日本に初寄港するなど、英国はインド太平洋への関与を強めている。インド系のスナク氏が、日英の連携をさらに深化させていくことを期待したい。



