政府が現行の健康保険証を2024年秋に廃止し、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」に切り替える方針を表明した。運転免許証との一体化も、当初予定していた24年度末から前倒しする。
取得を事実上義務化し、交付率が約5割にとどまるカードの普及加速を目指すものだ。それには、個人情報漏洩(ろうえい)防止策の徹底が大前提となる。
利便性と医療の質が向上
マイナ保険証は昨年10月に本格運用を開始。医療機関や薬局に設置された機器で簡単に本人確認ができ、専用サイトで過去に処方された薬の履歴などが閲覧できる。旅先や災害時に病気になっても、適切な診察を受けることが可能になる。利便性と医療の質が向上することは歓迎できる。
政府はカードをデジタル社会を構築するための基盤と位置付け、22年度末までにほぼすべての国民が取得する目標を掲げている。カードがあれば、医療や介護、就労、各種証明書発行に関するサービスをスムーズに受けられるようにする計画を立てている。
新型コロナウイルス対策で実施した一律10万円の特別定額給付金では、デジタル化の遅れで混乱が生じた。カードが銀行口座とひも付けされれば、こうした給付金も迅速に支給できる。マイナ保険証に切り替えることで、カードの普及促進と行政のデジタル化を一気に進める狙いがある。
ただ、現行の保険証廃止後もカードを持たない人への対応をどうするかという課題が残る。カードがなくても保険料をきちんと払っている以上、こうした人たちが不利益を受けない仕組みが求められる。
カード交付率は17年の8・4%から、ポイント付与事業などの効果で今年9月末時点で49・0%となった。とはいえ、いまだに交付率が約5割にとどまる背景には、個人情報漏洩への警戒感があるとされる。カードの利便性が高まれば、暗証番号の盗み取りや他人による悪用のリスクも高まる。
マイナ保険証の普及拡大は、情報漏洩の防止策を徹底することが大前提である。国民の不安を払拭(ふっしょく)できなければカードの取得も進まず、保険証の切り替えを予定通り実施できない恐れも出てくる。政府はセキュリティーについて分かりやすく説明する必要がある。
一方、現行の保険証は医療機関だけでなく、訪問看護や接骨院などでも幅広く利用されており、マイナ保険証に対応した機器の導入も急がなければならない。10月初めの時点で、使用可能な施設は3割程度にとどまっている。
政府は23年4月から全国の医療機関や薬局にシステム整備を義務付ける方針だ。このため、月内に取りまとめる総合経済対策に、関連施設への支援策を盛り込む方向で調整している。スムーズに利用できるようにしてほしい。
メリットの発信強化を
マイナ保険証のメリットが、国民に十分に伝わっていない面もある。医療のデジタル化に向け、政府は情報発信を強化して周知を徹底すべきだ。



