
米国のバイデン政権で初の「国家安全保障戦略」が発表された。中国を「唯一の競争相手」として長期的に対抗していく姿勢を示し、ウクライナに軍事侵攻したロシアを「差し迫った脅威」と捉え、軍事、外交、経済分野で協調する同盟国と共に「統合抑止」を推進する方向である。日米同盟を基幹とするわが国の責務も重要になる。
中国は「唯一の競争相手」
トランプ政権時代の2017年に示された国家安全保障戦略で、中国とロシアを国際秩序の現状変更を目指す「修正主義勢力」と批判し、今回も中国の存在について「最も重大な地政学的試練」と強く警戒感を示したのは、妥当なことだ。
ウクライナ侵攻中のロシアについては、欧州の安全保障秩序に差し迫った脅威となり「世界的な混乱や不安の要因になっている」と厳しく非難した。だが「中国のような全般的な能力を備えていない」として、あくまで中国を最大の脅威として問題視している。
16日に始まる中国共産党大会で習近平国家主席は3期目に入るとともに、一党独裁体制の下で毛沢東のように神格化される見通しだ。このような「専制主義国」に対して、米国や同盟国など「民主主義国」が競い合いで克服しなければならないとの世界観を提示している。
この二極化には、ウクライナ侵攻までの首脳外交が抑止機能を果たし得なかった危うさはある。しかし、もはや中露の国際秩序を不安定化する現状変更が抜き差しならないところに来ている状況だ。わが国も新戦略で触れられる「インド太平洋は世界の経済成長をけん引し、21世紀の地政学の中心」の意味を踏まえ、協調すべきである。
ただ前の安保戦略は、あらゆる手段を使って中露に対抗する「力による平和」を強調したのに対し、今回バイデン政権は気候変動問題など大国間競争から焦点をそらしかねない課題も列挙した。論争ある政策は中間選挙や大統領選挙で民主党、共和党の争点になり、米国内の結束に影響しそうだ。
20年大統領選挙で国民の亀裂を増幅しながら政権交代してバイデン政権になり、ウクライナ侵攻や中国による露骨な台湾への軍事的威嚇が止まないことは憂慮される。
米国の弱体化の中で「統合抑止」を唱えたことから、軍事、外交、経済で同盟国に協力を要求する局面がさらに増えることは避けられない。わが国は防衛上の責務とともに経済分野でどこまで応じることができるか課題となろう。特に米国が「唯一の競争相手」とみる中国とは、トランプ前政権で進めた経済制裁による対決がさらに激化し、中国と大きな経済関係を持つわが国は覚悟を要するだろう。
わが国も態度決する局面
実際、新安保戦略発表を前に米商務省は、国家安全保障上の懸念を理由として中国に対する半導体、半導体製造装置の輸出制限を強化することを決定した。技術力、経済力で中国を抑え込むことができるか否かが「長期的な対抗」の重要な要素になる。米中の経済・技術戦争が進む局面で、わが国も態度を決する必要に迫られよう。



