臨時国会で岸田文雄首相の所信表明演説に対する各党代表質問が始まった。北朝鮮が日本上空を通過する弾道ミサイルを発射し、一段と安全保障上の緊張が高まっている中で、立憲民主党の泉健太代表は依然として安倍晋三元首相の国葬儀に反対し、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との「接点」を追及するテレビのワイドショーと変わらない姿勢を示している。
常軌逸した演出目立つ
安倍氏を手製の銃で殺害した容疑で逮捕された山上徹也容疑者が、母親の多額の献金をめぐる旧統一教会への恨みを供述したとされる警察情報から、ワイドショーはじめマスコミは教団による金銭トラブルや被害者の証言などを取り上げ、集中的に批判報道を繰り返してきた。
一方、教団は8月21日に「報道によって誘発された差別・ヘイト感情」により「殺害予告を始めとした誹謗(ひぼう)中傷の数々は、優に1万件を超え」、脅迫行為や施設への落書きなどがあったこと、同25日には状況を苦にした20代後半の女性信者の自殺未遂を報告している。教団とのトラブルによる被害者の存在も事実であり、一方で悪者扱いされる教団の一般信者が大きな精神的苦痛を受け、教団側に実害が生じていることも事実だ。
この状況の中で行われた泉氏の質問には、3カ月に及んで批判を展開するマスコミの報道によって、教団に恨みを抱く山上容疑者に同情する人々だけに共感したかのような感情の高ぶりが認められた。
衆院議長の細田博之氏が教団の関連団体との「接点」があるということについて、振り向きながら細田氏を追及したことは常軌を逸した光景だった。エネルギー問題に関する質問に入るところで「何か笑いましたか」とむきになって閣僚席をにらみ付ける所作は、これまで提案型の政策論争を挑もうとした泉氏の代表質問らしくなかった。
マスコミによる集中的な批判報道で増幅された特定の少数派教団への憎悪感情をネガティブキャンペーンに利用し、国会議事堂の壇上でレッテル貼りを行うことは、扇情的な政治演出である。
教団と政治家の「接点」は多くのマスコミが血道を上げて探しているが、ほとんどが関連団体とされるもので政治家のパーティー券の購入、集会への参加など違法なものではない。このため泉氏が、教団の関連団体との接触に関する報告にぶれのあった山際大志郎経済再生担当相の更迭を要求したものの、首相は拒否した。
このような問題で政治家が処分されては、信者と会ったり話したりするだけでも「接点」と問題視する圧倒的な宗教差別と人権侵害を生みかねない。一方、トラブルや被害者への対処を政治が行う必要はある。
危うい「接点」追及
だが、立民のもう一人の質問者である西村智奈美氏は、解散請求の要件のない旧統一教会に解散要求を行うべきと踏み絵を迫っている。対立政党を蹴落とすために用いる「接点」追及のようなワイドショー政治は、一歩間違えば国会がヘイトスピーチにお墨付きを与えかねない。そうあってはならない。



