全国レベルの「探究型授業」で地域活性化

秋田県教委の「秋田型教育留学推進事業」

北秋田市の短期チャレンジ留学「スキー体験」をする参加者(写真上)と、首都圏から参加し、秋田の教育や自然を学ぶ親子ら(写真下)(同市ホームページから)

秋田県教育委員会は、県外の児童生徒を受け入れる「秋田型教育留学推進事業」に取り組んでいる。全国学力・学習状況調査でトップレベルの好成績を支えているとされる同県の「探究型授業」を体験できることで注目されている。参加者のリピート率は高く、児童の満足度も高い。県教委では「高質な田舎『秋田県』にお越しください!」と参加を呼び掛けている。(市原幸彦)

問題行動の小5女子が劇的変化

児童の満足度とリピーター率高く

8月上旬、秋田県の東部中央にある仙北市は長崎や東京などの8家族18人を「秋田型教育留学推進事業」の体験で受け入れた。4日間で田沢湖やクニマスをテーマにした探究型の学習をはじめ、農家民宿での田舎暮らし、田沢湖でのカヤック体験。劇団わらび座では地元の子供と共に、演技を通じて人の気持ちを理解する大切さを学んだ。参加した保護者からは「自分の考えや気付きを付箋に書いて議論する授業の進め方は、皆が参加できる。一人ひとりの考えをクラスメートや先生に伝えることができるので良いと思いました」などの感想が寄せられた。

県教育庁生涯学習課によれば、事業は平成28年にスタート。「県の魅力を全国に発信し、関係人口の増加、ひいては移住・定住を促進することが狙いです。県内に滞在して小中学校などに通い、自然や農業も体験しながら同県の教育を体感する」ことを目標にしているという。新型コロナウイルスの影響で令和2、3年度は、ほぼ受け入れが無かったが、これまでに延べ366人の児童・生徒が参加。うちリピーターは102人に上る。

留学の形式は大きく分けて短期留学と長期留学の二つあり、本年度は5市町が取り組む。短期留学(にかほ市、小坂町)は3泊4日程度。家族も共に参加する「家族留学」(仙北市)もあり、いずれも夏休み、冬休みに実施する。定員は各10~20人。

長期留学(北秋田市、五城目町)はオーダーメードで日数を設定することができ、留学先での学習も自身の学校の出席日数としてカウントされる。定員は各5人程度で、過去には100日以上過ごした子供もいた。

長期型は、“夏休みのズレ”を利用した画期的な留学だ。秋田県の小中学校は8月下旬には夏休みが終わって新学期が始まるところが多い。8月いっぱいまで夏休みという地域は、首都圏を中心にかなりある。このズレを利用して、秋田県の小中学校に通ってもらう。

もともとこの教育留学は子供の成長を主眼に置いたものではなく、秋田県のファンを増やすのが目的だ。そのため、追跡調査はしていないが、一定の教育的効果もあることは確かだ。

6月には、あるツイッターで、問題行動があった小5の女子が、留学に参加して劇的に変化したことが紹介され、問い合わせが約2カ月で130件を超え、ウェブサイトへのアクセス数も約1カ月で19万5000件に達した。また過去には、お別れ会で「自分が必要とされている気がしてうれしかった」と涙を流した子供もいたという。

同課は「秋田県はまだまだ3世代同居家庭が多く、地域の子供たち全員をわが子のようにかわいがる昔ながらの文化が続いている。このような人間関係に、心に響くものがあったのでは」という。教育留学をきっかけに同県に移住・定住した例はまだないが、教育留学は都市と地方のつながりを強化する可能性を秘めているといえる。

特に仙北市では、今年度すでに定員オーバーになり、受け付けを終了した。実施自治体が少ないためだが、同課では「まだまだ体験させたい家族が、全国には多くいるはず。県内すべての市町村で受け入れが始まることを期待している。秋田ファンを増やす意味からも、受け入れ体制を一層充実させたい」と語っている。