インドネシア大統領は3選を禁じられており、2度の大統領選で勝利し高い支持率を維持するジョコ・ウィドド大統領ながら、2024年2月の大統領選には出馬できない。世界最大のイスラム国家インドネシアの次期大統領選に向けた動きをリポートする。(池永達夫)

インドネシアのプラボウォ・スビアント国防相は先月中旬、党首を務めるグリンドラ党の会合で、「国のために戦う準備ができており、全身全霊をインドネシアにささげる」と語り、24年2月の大統領選に出馬する意向を表明した。プラボウォ国防相はこれまで2度の大統領選で、立て続けにジョコ大統領に敗れている。今回は後がない3度目の挑戦で「3度目の正直」となるかどうか正念場の大統領選だ。プラボウォ国防相は今後、立候補要件をクリアするため、連携政党を立てることになる。
インドネシア大統領選では、大統領と副大統領に立候補するペアが所属する政党が国会で合計20%以上の議席を占めているか、直近の総選挙で25%以上を得票した政党または政党連合の支持を得る必要がある。プラボウォ氏率いるグリンドラ党は、単独ではこの要件を満たさず、他党と連携しなければならない。
なおインドネシア民間調査機関LSIは今月上旬、24年大統領選の支持率調査で中部ジャワ州のガンジャル・プラノウォ知事が24・5%と最も高く、プラボウォ国防相の21・3%、ジャカルタ特別州のアニス・バスウェダン知事が19・3%だったと発表した。
ただ正副大統領候補を問う調査では、最も好感されたのがプラボウォ国防相とエリック・トーヒル国営企業相のペアで37・8%と群を抜くトップの数字をたたき出し、ガンジャル氏とプアン・マハラニ国会議長は28・2%だった。
アイルランガ・ハルタルト経済調整相と西ジャワ州のリドワン・カミル知事のペアは16・8%だった。
プラボウォ国防相には軍人票とジョコ政権の軍出身閣僚のバックアップが期待されるものの、スハルト政権時代における人権弾圧などの負のイメージ払拭(ふっしょく)が課題であり、大統領選に向けた最後のステップを駆け上がるにはペアを組む副大統領候補次第との見方がもっぱらだ。
その副大統領候補には、ジョコ政権の最大与党・闘争民主党(PDIP)のプアン国会議長の名が上がっている。
だがPDIP党首のメガワティ氏が、次期大統領候補に推したい人物はプアン国会議長だ。プアン国会議長はメガワティ元大統領の長女でスカルノ初代大統領の孫に当たるサラブレッドでもある。
しかも、PDIPがメガワティ氏の意向で一本化しているわけでもない。プアン国会議長の国民的人気が低いことから、現実主義者たちはガンジャル知事を担ぎたい意向を表明している。こうした状況下でジョコ政権の最大与党PDIPは、プアン国会議長派とガンジャル知事派で割れて二分されるケースも想定しておく必要がある。
さらに可能性が指摘されているのが、3選禁止のジョコ大統領が副大統領として立候補するケースだ。
ジョコ大統領は、2期務めている現職の強みを生かし、集票力のある草の根サポーター集団を維持育成してきた。このサポーター集団の意向次第で大統領選の風向きが変わる可能性があることから、どの候補も喉から手が出るほど、支持取り付けに躍起となっている。そのバーゲニング材料として次期大統領選で、ジョコ大統領を副大統領候補に据えるケースも考えられる。いずれにしても選挙は水物、とりわけ何があってもおかしくないのがインドネシア政界だ。これから約1年半、インドネシアは長丁場の大統領選に入る。



