【上昇気流】(2022年9月30日)

安倍晋三元首相の国葬で追悼の辞を述べる菅義偉前首相=27日午後、東京都千代田区(代表撮影)

安倍晋三元首相の国葬で追悼の辞を述べる菅義偉前首相=27日午後、東京都千代田区(代表撮影)

会場には入れなかったが、テレビでその様子をつぶさに見た米国人の男性ジャーナリストが興味深い感想を語った。彼は弔辞を読む人が参列者ではなく、安倍氏の遺影と遺骨の方を向いていたことにまず驚いたという。

そして菅氏の弔辞など、そこに安倍氏がいるかのように語り掛けているのに感動し、かつその内容に心を打たれたという。菅氏は生前のように「総理」と呼び掛け、その心情を吐露し、あるところでは声を詰まらせ、安倍昭恵夫人が涙ぐむ場面もあった。

こういう形式は日本の告別式ではごく一般的だ。しかし、彼にとっては一種のカルチャーショックでもあったようだ。故人への追悼の心は共通するが、宗教によってそのスタイルはそれぞれ異なる。

その一方で彼が心を打たれたのは、肉体は滅びても魂は残るという人類共通の普遍的な感覚があるためと思われる。

国葬の性格上、憲法の政教分離規定から特定の宗教色を排する形式にはなっている。しかし、この厳かな儀式は人々の心を揺さぶった。霊魂が不滅だとすれば、政治的遺産はもちろん、さまざまな形で安倍氏の魂はこれからも生き続ける。