
奈良のシンボルと言えば、大仏と鹿。先日も、鹿たちが相変わらず観光客に愛嬌(あいきょう)を振りまいているのを見た。現在、奈良公園には約1200頭の鹿が生息している。鹿にこれほど身近に接することができる観光地は世界でも稀(まれ)だ。
奈良公園の鹿は、春日大社の神様の使いとして昔から保護されてきた。人に懐いているのは保護の歴史が古いためだが、一方で牡鹿の方は人に危害を加えないよう角を切られるという代償を払わされてきた。
英ロンドンの南西、テニス選手権で有名なウィンブルドンの近くリッチモンドに広大な自然公園があり、そこで鹿を見ることができる。野生に近い状態なので人には懐いておらず、少し離れた所から眺めるのが精いっぱい。それと比べても奈良公園の鹿はユニークだ。
観光客から鹿煎餅をもらって食べる鹿だが、主な餌は公園に生えている芝などの草である。公園近くで拾ったタクシーの運転手によれば、おかげで芝刈りの費用がどれだけ節約されているか分からない。運転手曰(いわ)く「ほんまに神様の使いですわ」。
その鹿たち、1日500㌘近くの糞(ふん)をするという。1200頭もいるのだからかなりの量になる。しかし公園が糞だらけにならないのは、昆虫のフンコロガシが食べてくれるからだ。
そのため、奈良公園は『ファーブル昆虫記』にも出てくるこの昆虫の宝庫になっている。観光の復活で人間の経済活動も、こういう自然のサイクルにあやかりたいところだ。



