ペロシ米下院議長が8月初めに台湾を訪問して以来、米中関係の緊張がさらに高まる中、米議会が超党派で中国による台湾侵攻の抑止に取り組む姿勢が顕著である。米上院外交委員会は、台湾への軍事支援を大幅に拡大する「台湾政策法案」を賛成多数で可決した。中国の脅威に対し、軍事協力を強化できるよう早期成立を目指すべきだ。
「主要同盟国」に指定
法案は、台湾軍の装備や訓練などの強化を目的とした4年間で総額約45億㌦(約6400億円)の軍事支援を行うことや、最大20億㌦(約2850億円)の財政援助などを規定。台湾侵攻の動きがあれば、中国共産党幹部らに制裁を科すことも明記している。
画期的なのは、台湾を北大西洋条約機構(NATO)非加盟の「主要同盟国」に指定することを盛り込んだことだ。このため、対外援助法を改正して対外支援と武器輸出で特恵関税を与えるとしている。これは台湾を国として扱う内容だとみることもできる。また、台湾に関する基本政策を定めた台湾関係法を改正し、攻撃的兵器の供与も可能にする。
法案の内容は軍事支援にとどまらない。米国が「台湾市民の正統な代表」として台湾政府と関わると定め、事実上の在米大使館である「台北経済文化代表処」を「台湾代表処」に改称する交渉を台湾当局と始めることも明示した。法案が成立すれば、米台関係や軍事協力の強化が進むだろう。
米上院外交委の法案可決を受け、中国外務省の毛寧副報道局長は「台湾を独立させようとする分裂勢力に誤った信号を送る内容で、断固として反対する」と述べた。バイデン米政権も法案成立が「一つの中国」政策の変更につながる動きと受け止められかねないと懸念。議員らに文言修正などを働き掛けているとされる。
バイデン大統領は今月、米メディアのインタビューで、中国が台湾に侵攻した場合、米軍が台湾を防衛すると明言した。しかし発言後、ホワイトハウス高官は、米政権が台湾防衛を明言しない「曖昧戦略」に「変更はない」と述べている。
あくまでも「一つの中国」政策の枠内での発言なのだろうが、勇ましいことを言っても行動が伴わなければ中国に足元を見られるだけだ。台湾の不信を招けば、中国に付け入る隙を与えかねない。バイデン政権は法案の骨抜きを図るのではなく、早期成立に協力し、曖昧戦略の見直しにも踏み込むべきだ。
中国はペロシ氏の訪台に反発し、訪台直後に台湾周辺で大規模な軍事演習を行った。だが、米議員の訪台はむしろ活発化している。ペロシ氏の後、1カ月余りの間に3組が訪問した。今年に入り台湾を訪れた米議員は9月7日時点で計28人に上る。
日本版関係法の制定を
中国の台湾に対する軍事的圧力が強まる中、台湾と民主主義の価値観を共有する日本も、関係強化を進める必要がある。
台湾の危機は日本の危機でもある。まずは、台湾との政治、経済、防衛などの相互交流に関する日本版台湾関係法の早期制定を求めたい。



