大きなことを考える「散歩学」オーストリアから

散歩も学問だと初めて知った。人間だけが目的がなくても歩みだす。「今からちょっと外に散歩する」と言い残して出掛ける犬や猫は多分いないだろう。

「散歩学」はスイスの社会学者が1980年代に考え出し、独カッセル大学で学問として広がった。散歩学は、人が環境をどのように認識し、人と環境の間の相互作用などを分析する学問だという。

それだけではない。散歩は「何か大きなことを考える手段」となる。日常茶飯事の出来事に思考を集中させず、宇宙とは何か、何のために生きるのかなど、喧騒な日々、忘れてしまった「大きなテーマ」について、歩きながら考えるのが散歩学の醍醐味だという。

文豪ゲーテも、デンマークの哲学者キルケゴールも、楽聖ベートーベンも毎朝、目が覚めると、朝食前に30分ほど散歩したという。ウィーンの森には「ベートーベンの散歩道」と呼ばれる場所があるほど。ベートーベンは散歩時には常に鉛筆と紙を持参していたという。

欧米社会では忙しい人の代わりに飼い犬を散歩させてくれる人がいる。もちろん、代金を払う。ところで、散歩したくても1人ではしたくない人のために一緒に散歩をしてくれる新たなビジネスが出てきた。彼らは「ピープル・ウォーカー」と呼ばれるプロの散歩人だ。歩きながら何か大きなテーマについて語り合う。

筆者は新型コロナウイルスの感染の恐れもあって外出する機会が少なくなった。そのため、脚の筋肉が弱まってきたのを感じている。そこで最近は、家人と共に可能な限り散歩することを心掛けている。(O)